未上場の株式会社(以下「同族会社A」とする。)の大株主である代表取締役(以下「甲」とする。)が、生前の対策をせずに死亡した場合には、甲が持っていた同族会社Aの株式は、遺産分割協議が成立するまでの間は相続人全員の準共有状態となります。
この準共有状態において、株主の権利を行使するためには、相続人全員の合意により窓口となる代表者(「窓口代表者」とする。)を一人決めて会社に通知しなければなりません。
もし、相続全般に関して相続人間で争いが生じている場合や、相続人が家庭裁判所へ相続放棄の申し立てをしようとしている場合には、その期間中に窓口代表者を決めることは難しいと思われます。
窓口代表者が決まらなければ、甲の後任取締役を選任する必要があったとしても、株主総会の開催要件(原則:議決権を行使できる株主の議決権の過半数の出席)を満たさず、株主総会を開催することすらできないおそれがあります。
最悪の場合、代表取締役が不存在という事態に陥って、銀行取引や契約の締結などが滞り、会社運営に大きな支障をきたすこともありえます。
一般的に、遺産分割協議が成立するまでには、法定相続人確定のための除籍謄本の取り寄せ、相続財産の調査、株価の計算、相続税の申告準備など時間を要する手続きが多いため、たとえ協議が順調なケースでも、この準共有状態は一定期間生じますので、後任代表取締役が速やかに会社運営を継続できる事前対策をしておくことが重要です。
また、甲に相続人がいない場合や、相続人全員の相続放棄が家庭裁判所に受理された場合には、甲の株式を承継する人が不存在となりますので、同族会社Aを継続して運営するためには、仮代表取締役の選任を裁判所に申し立てたり、株式を含む相続財産を管理する相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てたりしなければならなくなります。
このようなトラブルを回避するためには、経営者の方が元気なうちに対策を講じることが最も重要ですので、前述の柳沢先生の相続レポート等を参考にそれぞれの会社にあった対策をとられることをあらためてお勧めします。
最後に定款を活用した事業承継対策をご紹介します。
(1) 株式の売渡請求
定款に、「相続により株式を取得した者に対して、会社に売り渡すことを請求することができる」旨の定めを置いている場合には、会社は相続人に売渡請求をすることができるようになります。
この対策は、後継者以外の人が相続人である場合などで活用できますが、自社の株式を取得するためには、会社にそれだけの余剰金(分配可能額)がなければいけません。
(2) 種類株式(議決権制限株式)の発行
定款に、「配当を受ける権利はあるが、株主総会での取締役選任の決議において議決権を行使することはできない」などの内容を規定することにより、議決権が制限された株式を発行することができます。
遺言や生前の譲渡で、後継者に議決権が制限されていない株式を、その他の相続人には議決権が制限された株式をそれぞれ承継させることで、後継者以外の相続人の権利を保護しつつ、後継者に会社の経営権を取得させることができます。