①遺留分とは
民法で定められている一定の相続人が最低限相続できる財産のことをいいます(民法第1028条)。被相続人が自分の財産を誰にどのように分配しようと基本的に自由であるため、相続制度においては、どのような遺言であっても、基本的には被相続人の意思として尊重されます。しかし、「自分が死んだら、愛人に全財産をあげる」という内容の遺言書を作られてしまうと、残された家族は気の毒です。このようなことにならないように、民法では最低限相続できる財産を、遺留分として保証しているのです。遺留分の割合は、相続人が直系尊属(父母・祖父母・曾祖父母)のみの場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合(配偶者のみ・子供のみ・配偶者と子供・配偶者と親)は相続財産の2分の1、兄弟姉妹には遺留分はありません。
②遺留分の放棄
遺留分を持つ相続人が、親子間での何らかの事情により、「相続しなくてもよい」と言っているような場合に利用できることになります。
遺留分を放棄するケースはいくつか考えられますが、代表的なのは長男に家業を継がせるというケースです。この場合、家業に必要な財産など全て長男に相続させるため、兄弟などの遺留分を放棄させることがあります。ただ、こうした場合でも遺留分を放棄する兄弟などに対して生前贈与を行うケースがほとんどです。事前に遺留分を放棄することで、相続の際に揉めることを防ぐこともできます。
ただし、遺留分の生前放棄は家庭裁判所の許可が必要で、「遺留分放棄の許可の審判」を請求することになります。家庭裁判所が調査をし、この放棄について正当な理由があるかどうかで判断されます。
家庭裁判所が遺留分の放棄を許可する判断要素としては以下のとおりです。
(1)放棄が本人の自由意思に基づくものであること。
(2)放棄の理由に合理性と必要性があること。
(3)代償性があること(特別受益分があるか、放棄と引き換えに現金をもら
うなど代償があるなど)。
などの事情を総合考慮して、遺留分の放棄を許可するかどうかを家庭裁判
所において判断することになります。
★親が強要したと考えられる場合や一方的に不利益な場合には認められま
せん【(1)の本人の自由意思が否定されるため】。
★遺留分放棄の代償として贈与する場合は、既に当該贈与が履行されてい
るか、もしくは放棄と引き換えとして同時に履行することで認められて
いるようです(遺留分放棄の後、数年経ってから贈与が履行されるとい
う契約では、履行が遂行されない可能性があると考えられて不許可にな
るという審判例(神戸家裁昭和40年10月26日審判)があります。
(3)の代償性が否定されて却下された事例)。
以上のことから、遺留分放棄が認められる判断基準として、代償性があった
方が、遺留分放棄が認められやすくなります。そして、その代償性の実現性の
観点からは、遺留分放棄の申立に先行して既に贈与を実行しているか或いは遺
留分放棄を条件に放棄と同時に贈与を実行するほうが、遺留分放棄はより認め
られやすくなると思います。
③さいごに
遺留分の放棄は、相続放棄と違い相続権を争うものではなく、相続人であることに変わりありません。相続が開始すれば、他の相続人とともに法定相続分の範囲で財産を取得することができてしまいます。遺留分の放棄だけでは、特定の相続人に相続財産を集中させることはできません。
特定の相続人に相続財産を集中させるためには、遺留分の放棄と併せて遺言書の作成が不可欠です。遺言書がなければ、たとえ生前に遺留分の放棄をさせていても、遺留分を放棄した相続人も法定相続分の財産を要求できてしまいます。「遺留分の放棄」と「遺言」は必ずセットで活用しましょう。