平成27年の末に発表された平成28年度の税制改正の内容から、不動産に係る改正について投稿させて頂こうと思います。
1.概要
近年の相続税の増税へ向けた大幅な見直しや、消費税率の引き上げといった大改革に比べると今回の改正は比較的おとなしい印象を受けました。
これまでの改正の流れとしては、いわゆる富裕層への課税強化や国民全体への消費税負担の増大といった、財源確保を目的とした個人への課税強化の動きが目立っていました。
今回の改正も、一連の課税強化の流れに即してはいるものの、余り目立った改正案はなかったように見受けられます。個人への課税に限定して今回の改正内容を見てみると「少子高齢化対策」に向けての税制面からのサポートといった意図が見えてきます。
その中から、2つ不動産に係る改正案をご紹介します。
2.空家に係る譲渡所得税の特別控除の特例の創設
実家で一人暮らしをしている親が亡くなって、その子供が実家を相続したものの利用価値がないまま空家として放置される。こういったケースが増えてきています。
その対策して昨年度、特定の空家に対する固定資産税の軽減措置の取消(要するに空家の所有者に対する増税です。)が施行されました。そして今回新たに空家対策として創設されることとなったのが、この制度です。
空家を売却し売却利益が出た場合は、原則としてその利益に対して所得税が課税されます。しかし相続により取得した「一定の条件」を満たす空家を「平成28年4月1日から平成31年12月31日」までに売却した場合は、その利益の内3,000万円までは課税しないこととなりました。
「一定の条件」とは次の通りです。すべて満たす必要があります。
・相続開始まで自宅として利用され、その後使用されていない(空家である)こと。
・昭和56年5月31日以前に建築されたものであること。
・相続直前において被相続人のみが居住していたこと。
・相続から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。
・区分所有建物(分譲マンション等)でないこと。
・建物を取壊して売却する、又は建物に必要な耐震改修を施して売却すること。
・売却額が1億円を超えないこと。
・上記条件を満たすことの証明書等が、行政より発行されていること。
正直なところ非常に条件が厳しいので、この特例が活用できる機会は限られると思います。もう少し要件の緩和等が打ち出されないか、今後の動向に期待したいところです。
3.住宅の三世代同居改修工事等に係る特例
少子高齢化対策の一環として、「介護」及び「子育て支援」の観点から、政府は「三世代同居」を推進しています。以前からも直接的ではないですが、三世代同居することにより所得税においては「扶養親族の所得控除」の活用、相続税においては自宅敷地についての「小規模宅地の特例による減額」の活用という形で、税制面で有利な事が多かったです。
今回新たに、一定の三世代同居改修工事を行った場合に、その年の所得税額から一定額を控除する特例が創設されることとなりました。
この控除の受け方には次の二つのやり方があり、いずれかを選択する事となります。
①ローン残高の2%を5年間控除する方法(最大控除額:5年間で62.5万円)
②標準的な工事費用額の10%を1年で控除する方法(最大控除額:25万円)
上記の内①は、ローンをする場合に限られますが、工事費用やご自身の所得状況により有利な方(税金が安い方)を選択するのが宜しいかと思います。
要件は次の通りです。
【①及び②に共通する要件】
・キッチン、浴室、トイレ、玄関のいずれかを増設し、これらの内2つ以上が複数になる事。
・工事費用(補助金等がある場合には、補助金等控除後の金額)が50万円を超える事。
・当該家屋に平成28年4月1日から平成31年6月31日までの間に居住する事。
【①の要件】
・借入金について、償還期間が5年以上の住宅借入金等である事。
もし、上記のような改修工事を考えておいででしたら、ぜひご活用下さい。