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遺言の限界を超える「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」の活用

2016.04.01

【遺言の限界】

「自分が亡くなったら全財産を妻に相続させ、自分の次に妻が亡くなった時には3人の子のうち確実に長男に当該財産を引き継がせたい。」というような方がいます。しかし、そのような内容の遺言書を残してもダメです。

何故なら、遺言では、自分が亡くなった時の財産の承継先を指定することはできても、その後(二次相続以降)の指定はできないからです。従って、前述の遺言の「自分が亡くなったら妻へ」という部分は法的に有効ですが、「自分の次に妻が亡くなった時は長男へ」という部分は無効です。妻が誰に相続させるかは妻の自由。これが遺言の限界です。

この夫の願いを叶えるには、夫の遺言とは別に妻も「自分が亡くなったら全財産を長男へ」という遺言書を残すしかありません。しかし、夫が妻にそれを強要はできませんし、もし妻が夫の望み通りの遺言を書いてくれたとしても、夫の死後に妻や他の子供達の要望によって遺言が書き換えられる可能性もあります。また、妻が既に認知症等で判断能力に問題が生じていた場合は、遺言自体することができません。

同様に、「自分が亡くなったら先祖代々の土地は長男へ。その後長男が亡くなったときは長男の嫁ではなく確実に孫に継がせたい。」もダメ。土地は一旦長男の嫁のものになる可能性があります。「自分が亡くなったら妻へ、でも自分達には子供がいないので、次に妻が亡くなったときには自分の弟(又は弟の子)へ。」もダメです。妻が亡くなったときには、妻側の親族に全財産が相続されます。

 

【遺言より信託】

このように、遺言では先々の財産承継についての指定ができません。ところが、信託という制度を活用すれば可能です。このような信託を、特に「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」と呼びます。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは、「受益者の死亡により、順次他の者が受益権を取得する旨の定めのある信託」です。例えば、自分の財産を信託財産として『委託者兼受益者:自分,受託者:長男』とする信託契約を長男と結びます。そして、その契約の中で、自分が亡くなった後は妻が受益者となり受託者である長男から生活費や医療費の給付を受けるようにし、次に妻が亡くなった時にはこの信託を終了して残余財産を全て長男に承継させる旨を予め決めておきます。

受益権の承継者を何代か先まで指定しておくということは、実質的には財産の承継者を何代か先まで指定しておくのと同じです。また、信託の設定を長男との契約によって行うのではなく、自分の遺言の中で指定しておくことも可能です。

 

【期間制限】

受益者は何代先までも指定でき、まだ生まれていない孫や曾孫などを指定することも可能ですが、期間には制限あり。「信託設定から30年を経過した時以後に、初めて受益者となった者が死亡するときまで、もしくは当該受益権が消滅するときまで」が期限です。つまり、信託設定から30年が経つと受益権の承継は1度しか認められないということ。例えば、最初の受益者を自分とし、第二受益者を長男、第三受益者を長男の子(孫)、第四受益者を長男の子の子(曾孫)と指定したとします。当該信託設定から30年経過した時点で、自分は既に亡くなっていて長男が受益者として存命していた場合、長男の死後は孫が受益者となりますが、孫が死亡したときに当該信託は終了し、曾孫が受益権を取得することはありません。

 

【信託と相続税】

後継ぎ遺贈型受益者連続信託では、受益者の死亡による受益権の承継が発生するごとに、その受益権が相続税の課税対象となります。その際には、小規模宅地等の評価減の特例などの適用も可能です。つまり、信託を活用しない通常の相続も、信託を活用したものも、相続税法上は何ら相違ないと言えます。

 

【信託と遺留分】

信託を活用する上で気を付けておかなければならないのは、遺留分との関係です。受益権の承継・取得により他の相続人の遺留分を侵害した場合は、遺留分減殺請求の対象になる可能性があり、特に後継ぎ遺贈型受益者連続信託の場合は、受益者の死亡により次の者が受益権を取得する都度、遺留分の問題が生じるおそれがあります。

もっとも、信託と遺留分の関係については専門家の間でも見解が分かれており、遺留分はそもそも関係しないという説や、後継ぎ遺贈型受益者連続信託では最初の受益者が死亡したときのみ遺留分減殺請求の対象になるという説もあります。信託には法解釈の点でまだまだ不明瞭な点もあり、今後の判例等を注視していくしかありません。私としては、万が一のときの家族間の争いを避けるためにも、『信託も遺留分減殺請求の対象になり得る』という前提でいた方がよいと考えています。

 

【二次相続以降の指定は信託でしかできない】

いずれにしても、民法で無効とされている「二次相続以降の財産承継者の指定」を実質的に可能にする手段は、この後継ぎ遺贈型受益者連続信託しかありません。事業の後継者確保、残される配偶者その他の親族の生活保障、障害を持つ子の生活保障、子のない夫婦の財産承継、先祖代々の資産の承継者確保など、何らかの事情で自分の死後の先々の財産承継者を指定しておきたい方は、この後継ぎ遺贈型受益者連続信託の活用を早急に検討すべきでしょう。

ご相談をお待ちしています。

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筆者紹介

江頭 寛
福岡相続サポートセンター
代表取締役社長

生前対策から相続発生後の申告・納税に至るまで、皆様から寄せられる無料相談への対応や、希望する幸せな相続の実現に向けての対策立案と実行支援を、弁護士・税理士・司法書士・不動産鑑定士等の先生方をコーディネートしながら日々やらせて頂いてます。お客様にとってベストな相続並びに資産の有効活用を徹底的にサポートすることが私の最大の使命です。また、相続対策セミナーも全国各地で積極的に開催中。まずはお気軽にご相談ください。

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