お世話になります。税理士の山方です。
今回は、不動産の「相続税評価額」と不動産鑑定士の行う「鑑定評価」について投稿させて頂きます。
1.不動産の「相続税評価額」と「鑑定評価額」
相続税の申告において、資産及び負債の評価額は相続発生時の「時価」により、評価する事となっています。この考え方は、相続財産に含まれる不動産についても当然適用されます。
不動産鑑定士は、合理的な計算根拠に基づき適正な不動産の「時価=鑑定評価額」を算出します。そのため、「鑑定評価額」により相続税申告をしても差し支えないと考える方も多いかと思います。しかし実際には、国税庁は「鑑定評価額」による相続税の申告を原則として認めていません。
相続税申告の際に用いられる不動産の「時価=相続税評価額」は、国税庁が発表している「財産評価基本通達」に記載された方法により一律に計算する事になっています。
なぜ同じ「時価」であるはずの「鑑定評価額」が、相続税の申告時には「相続税評価額」として認められないのでしょうか?
原因の一つとして考えられるのは、「鑑定評価額」が市場価格を適正に見積もる事を目的としていることに対し、「相続税評価額」の計算はあくまで「課税」を目的としており、『「課税の公平」の見地から、その計算方法は一律でなければならない。』という要請がある為と考えられます。言い換えれば、「相続税評価額」は基本的に誰が計算しても同じ評価額にならないと、課税上不公平になるという考え方です。
もちろん「鑑定評価額」も合理性を以て評価されるのですが、鑑定評価の場合は、評価方法が複数存在する事や、収益性の計算において推計値が用いられたりするため、不動産鑑定士の恣意性の介入が予想されます。このことが、公平性を第一に考える税務とはそぐわないこととなるのです。
2.相続税申告に「鑑定評価」は使えない?
それでは、相続税申告の際に、不動産鑑定士による「鑑定評価額」は常に使用する事が出来ないのでしょうか?答えはノーです。「鑑定評価額」を以て相続税の申告ができる場合もあります。
立地に問題のあるような、極めて「特殊性の高い不動産」については、一律に評価額の計算を行おうとする「財産評価基本通達」では、対応できない場合があります。この場合「財産評価基本通達」でそのまま不動産評価を行うと、市場価格と大きく異なる評価額が計上されてしまい、逆に課税の公平性が損なわれる結果となります。このようなときは、不動産鑑定士による「鑑定評価額」が相続税申告上有効と判断されることがあります。しかしこの場合は、「財産評価基本通達」により不動産を評価する事が、課税上不適当である事を納税者側で証明する必要があります。
相続税申告において「鑑定評価」を用いる場合は、税理士及び不動産鑑定士を交えて慎重に検討する必要があります。
3.相続税評価における土地評価の留意点
上段で、「財産評価基本通達」による「相続税評価額」は、誰が計算しても同じである必要があると書きました。それでは、本当に誰が計算しても同じ評価額になるのでしょうか?これも答えはノーです。
国税庁は課税の公平を図るため、原則として「財産評価基本通達」による評価を要請しています。そして基本的にどのような形態の不動産であっても、適正に計算できるように「財産評価基本通達」の内容を深化させていっています。その結果として計算の方法自体が複雑高度なものとなり、不動産に関する知識なしには正しく計算する事が困難な状況が生まれています。不動産の「相続税評価額」を正しく計算するには「建築基準法」「都市計画法」「借地借家法」「開発指導要綱」等、不動産関連法を理解する必要があります。
税理士は税務の専門家ではありますが、すべての税理士が上記の不動産関連法を知っているかというと、そうではありません。やはり、相続税専門の税理士でなければ上記関連法を踏まえたうえで、正しく評価額を計算する事は難しいと考えられます。また、税務申告にあたって不動産鑑定士に鑑定評価を依頼する場合も、税務に詳しい不動産鑑定士に依頼する必要があるのです。
税務署は、納税額が少ない時には指摘してきますが、納税額が多い時はなかなか指摘はしてくれません。
オーナー様におかれましては、無駄な税金を納めない為にも、状況に応じて正しい専門家選びをする必要がありますので、十分にご注意ください。