法務省は平成29年5月より相続手続きを簡素化する『法定相続情報証明制度(仮)』を新設すると発表しました。
現在、相続が発生し遺言がない場合については、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を集める必要があります。その書類を法務局や各金融機関の窓口に提出する必要があり、その費用は相続人が負担するようになっています。
新しい制度では、最初に戸籍謄本等一式を法務局に提出すれば、その後は登記所が発行する1通の証明書を提出するだけで済むようになるそうです。
相続手続きの簡素化は、相続人や金融機関などの負担軽減を図るとともに相続による登記を促して所有者不明の不動産を解消することが狙いだそうです。
ただ結果的には一度は戸籍謄本等の書類すべてを集めないといけないわけですから楽になる訳ではない気がします。結果、楽になるのは各金融機関などの手続きを受ける側だと思います。現在、各金融機関は相続による名義変更の際は、預かった戸籍等を大量にコピーしていたわけですから、これが証明書1通で済むということですので大幅な事務の削減になります。
一方、確実に大変になるのは法務局です。戸籍謄本等一式が法務局に持ち込まれて、それを一から確認し、不足していれば申請人に対し追加提出の指示を行い、誰が相続人かの証明書を作成することになります。これは法務局の体制からいっても無理があるような気がします。法務省は相続が発生すれば司法書士等に依頼するだろうと思っているのですが、もし自分で登記したいという人が出てきたら一から行うことを教えないといけず大変だと思います。
そもそも所有者不明の不動産があるということはどうしてでしょう。これは日本には現状、不動産登記簿、国土利用計画法に基づく売買届出、固定資産税台帳、農地基本台帳など、目的別に各種台帳はあるものの、土地の所有・利用を国が一元的に把握できる仕組みはありません。
例えば不動産登記は任意で、登記後に所有者が引越しした場合でも住所変更する義務はありません。相続の登記には費用と時間がかかるので、市町村としては親族か相続人の誰かが固定資産税を納めてくれればいいとなり、亡くなった方の名義のまま変更する義務がない為に不動産の名義人と支払者が違うという場合も多いです。
所有者不明の大きな原因となってしまうのが土地の所有者が相続登記をせずに亡くなった方の名義のまま放置しているパターンです。自治体ではそうした相続登記されていない土地について、相続人の調査は行っているものの、うまくいかず、そのままずっと年数が経過しねずみ算的に法定相続人が増えていって収拾がつかず、例えば国が新しく道路を作る為に土地を買収しようとしても土地の権利が複雑になっていて買収が出来ず道路が作れないという事例も増えています。
例えば宮城県や岩手県は東日本大震災の津波で影響を受けた宅地を自治体が買取る事業を行っていますが、相続人全員と連絡がとれないなどの理由で買取りが進んでいない土地が全体の17%にも上ります。
今後はこの問題は増えることが予想されています。もちろん土地が値上がりしている価値の高い不動産については費用を払ってでも登記をする人は増えると思いますが、逆に資産価値の低い土地は魅力がなく相続放棄する人も増えています。また相続放棄ができない場合でも誰が土地をもらうかの意見が分かれて、登記しないままも増えるでしょう。
今回の『法定相続情報証明制度(仮)』は、まず手続きを簡素化することで相続登記を推進したいというのが国の想いだと思いますがもしかしたら抜本的な改革が必要になるのかもしれません。