はじめに
被相続人の相続財産の中に自宅や経営していた工場等の不動産がある場合、不動産は預貯金のようにきっちりと分割するのが困難なため、非常に高い確率で遺産分割協議が難航します。そのため、相続財産として取扱いの難しい不動産についてよく知っておく必要があります。
①不動産の分割方法について
遺産が自宅しかなく且つ相続人が複数人いる場合の自宅の分け方には大きく分けて自宅を残すか、売却するかという選択を前提に下記の4つの方法があります
②不動産評価の基準時について
遺産分割の際に遺産を相続開始時に溯って評価するとなると、遺産の評価の変動を無視せざるを得ないこととなり、相続人間に不公平な結果をもたらす可能性が高いことから、実務的には遺産分割時を遺産評価の基準時とします。
例えば遺産として不動産と株式があるとして、相続開始時には共に1000万円と評価されていた場合、相続開始時を基準とすれば、不動産を相続しても株式を相続しても同じく1000万円の価値を取得することになります。しかし、遺産分割がなかなか行われず、実際に遺産分割する段階で不動産は値下がりして800万円、逆に株式は値上がりして1200万円となっていたとすれば、不動産を相続した者は実は800万円の交換価値を、株式を取得した者は同じく実は1200万円の交換価値を取得することになります。これでは不公平になるので、具体的な遺産分割に関しては「遺産分割時」を基準にします。
③相続開始から遺産分割確定までの不動産賃料の帰属について
相続開始後から遺産分割確定前の賃料債権は誰のものかという点については最高裁の判例があります(最高裁平成17年9月8日判決)。
最高裁は、次のように判断しています。
(1)相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結
果生じる賃料債権は、遺産とは別個の財産であって、各共同相続人がその相続
分に応じて分割単独債権として確定的に取得する。
(2)各共同相続人が相続分に応じて賃料債権を確定的に取得することは、後に
なされた遺産分割の遡及効による影響を受けない。
つまり、相続開始後、遺産分割協議成立前までの賃料債権については、遺産
分割協議で当該不動産を取得したとしても、当然に取得者に帰属するわけでは
なく、遺産分割協議の対象となる「遺産とは別個の財産」であり、当然にそれ
ぞれの相続人に確定的に帰属するということになります。
まとめると、賃料については、
ア 相続開始前にすでに発生した賃料
→ 遺産分割協議の対象となる遺産
イ 相続開始後、遺産分割協議成立までに発生した賃料
→ 遺産分割協議の対象とはならず、共同相続人が各法定相続分で取得
ウ 遺産分割協議後の賃料
→ 遺産分割で不動産の所有者になった相続人に帰属するもの
という形に整理できます。
◎遺産分割には遺言が有効
相続人がもめそうな場合には、遺言書を作成しておくことをおすすめします。遺産は法定相続分に従って相続することが原則ですが、遺言書があればこの法定相続分に従わず、たとえば長男にだけ多くの資産を遺すこともできます。
また、誰にどの資産を遺すのかを特定できるので、「会社は長男に継がせたい」=長男には事業用不動産を、「老後の面倒をみてくれた長女にはこの自宅に住んでもらいたい」=長女には自宅の不動産を遺すなど、被相続人の遺志を尊重することができます。
また、相続開始時から遺産分割確定までの不動産賃料についても、相続人の一人に賃貸不動産を相続させる遺言があるときは、被相続人の死亡時に直ちにその相続人が不動産を取得することになり、被相続人の死亡時からの相続人が賃貸人になり、被相続人の死亡時以降に発生する賃料は全てその相続人のものとなります。
相続人以外の者に賃貸不動産を遺贈する遺言があるときも、被相続人の死亡時に直ちに受遺者が不動産を取得することになり、被相続人の死亡以降に発生する賃料は全て受遺者のものになります。
最後に
遺言書がないと、相続の際に遺産分割協議が必要となり、相続人同士の話し合いにおいて争いが生じやすくなります。協議がまとまらなければいつまで経っても相続財産を分けることができません。親族間の争いを避けるために「遺言書」を作成しておくことをお勧め致します。