平成28年5月13日、成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下、「利用促進法」という)が施行されました。
利用促進法とは、成年後見制度の利用者の保護、利便性の向上等を図ることを理念とし、これらを実現するために必要な基本計画の策定、法整備、関係行政機関の調整等を推進することを目的とした法律です。
この利用促進法の理念に基づく具体的な実施策として、平成28年10月13日、成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下、「事務円滑化法」という)が施行されました。事務円滑化法のポイント次の3点です。
成年被後見人宛ての郵便物等の中には、有価証券の報告書やクレジットカードの明細書等、成年後見人が成年被後見人の財産状況を正確に把握し、適切な財産管理を行うために必要なものが含まれています。
成年後見人が同居の親族以外の方である場合、これらの郵便物を成年後見人が確実に受け取るためには、郵便事業者に対して郵便物の転送を依頼することになりますが、必ずしも応じてもらえるものではありませんでした。
そこで、今回の事務円滑化法によって郵便物の転送の制度が新設され、成年後見人が郵便物の転送を必要とする場合には、家庭裁判所に対して審判を申し立て、認められれば、最長6ヶ月間、成年後見人の自宅または事務所で郵便物を受け取ることができるようになりました。
成年後見人は、成年被後見人宛ての郵便物を開封し見ることができることが、明確に規定されました。
但し、憲法で保障される成年被後見人の通信の秘密に配慮し、成年後見事務に関しないものについては、すみやかに成年被後見人に引き渡すものとし、また、成年被後見人からの閲覧請求があったときは、これに応じなければいけません。
成年被後見人が亡くなられた場合には成年後見は終了し、成年後見人は、成年被後見人の財産を法定相続人またはその代表者に引き継ぐことになりますが、引き継ぐまでの間の財産の現実的な保全や管理をせざるを得ない状況におかれたり、成年被後見人の生前の医療費の支払いや火葬等の本来、相続人が行う事務についても、周囲の期待を裏切れない気持ちから、その対応に苦慮したりすることがあると指摘されていました。
このような成年被後見人の死後事務をすみやかに処理できるようにするため、事務円滑化法によって、成年後見人が行うことができる死後事務が次のとおり規定されました。
(1) 特定の相続財産の保全に必要な行為
(例) 建物の雨漏りや水漏れ等の修繕
(2) 弁済期が到来した債務の弁済
(例) 生前の医療費や入院費、公共料金等の支払い
(3) 火葬、埋葬に関する契約の締結、その他相続財産の保全に必要な行為
(例) 電気・ガス・水道等の供給契約の解約
なお、上記死後事務を行うためには、次の要件を満たしている必要があります。
・成年後見人が当該事務を行う必要があること
・成年被後見人の相続人が相続財産を管理することができる状態に至っていないこと
・当該事務を行うことが成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかな場合で
ないこと
・上記(3)の死後事務については、上記の要件に加えて家庭裁判所の許可も必要
最後に、利用促進法と事務円滑化法の施行により、今後、成年後見制度の発展と拡充が期待されますが、財産の保全、管理、運用、処分等について、ご本人の意向を具現化するためには、成年後見制度の利用前に、民事信託・任意後見契約・遺言等による備えを積極的にすることが重要です。