「養子縁組」という言葉、よく耳にする言葉ではありますが、身近な問題として捉えている方はあまり多くないのではないでしょうか。しかし、相続手続きに関わっていると、この言葉、意外とよく話題にのぼります。
そういうわけで、今回は「養子縁組」について簡単にお話していきたいと思います。
①養子縁組の重要性
養子縁組とは「親子の血縁のない者の間に、親と嫡出子(ちゃくしゅつし)との親子関係と同じ法律関係を成立させる法律行為」のことをいいます。
養子縁組をした場合、相続においては実子と同じく法定相続人として扱われます。非嫡出子が嫡出子に比べて、不利な立場に置かれることを考えると、養子縁組の効果の大きさが伺えます。
養子縁組はどういう場合に行うでしょうか。
たとえば子どものいない夫婦が養子を迎える場合や、両親を亡くした親戚の子を養子にするなど、さまざまな事情が考えられます。
「相続」に着目すると、とても重要になるのは「再婚」のケースです。
お互いに、あるいはどちらかが子どもを連れて再婚する場合、再婚する親同士が婚姻関係を結ぶとともに子の入籍手続を踏めば、子どもも同じ籍に入ります。これにより、一つの家族としての生活が始まっていきます。
しかし、同じ籍に入ったからといって、親子関係が当然にできるわけではありません。養子縁組をしなければ、親子とはなれないわけです。でも、仲のよい家族にとってみれば、養子縁組しようがしまいが、家族に変わりはない!確かにその通りです。
ただし、両親のどちらかが亡くなったとき、問題は表面化します。
そう、「相続」の問題です。
たとえ全員が仲良く暮らしていたとしても、相続が発生すれば立場の違いは明らかです。
配偶者と実子は法定相続人として権利を得ますが、養子縁組をしていない子はいくら「家族」とはいえ、法定相続人とはなりません。
たとえば被相続人がきちんと遺言書を残していた場合や、生命保険金等によって養子関係のない子も十分に保障された場合は何とかなるでしょう。しかし、血の繋がりがなくても可愛い我が子であれば、養子縁組をしておくことをおすすめします。
②相続対策としての側面
相続手続きのお手伝いをしていると、複雑な親族関係に出会うことがよくあります。
複雑とは言っても、兄弟・親子仲が悪いとか、愛人とその子どもがいるという類の複雑さではありません。よくある例で言うと、祖父母と孫が養子縁組をしている、というケース。祖父母と親は親子で、親と孫も親子で、祖父母と孫も親子で・・・・・もう何が何やら・・・・。
仲が良い親族関係の中で、どうしてこんなに複雑なことをしているの?と思われる方も多いかもしれません。しかし、これにはちゃんと理由があるのです。
その理由とは、「相続対策」です。
上述した通り、養子縁組をした子は実子と同じく法定相続人として扱われます。法定相続人になれば、もちろん相続権を持つ事になりますが、その他に「相続税控除」の計算においても法定相続人としてカウントされるというメリットが出てきます。
例えば相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですので、法定相続人が一人増えることで控除額が600万円増えるということになります。その他にも法定相続人の数によって控除額等が増える制度がありますので、何かにつけて税務上有利になる(=節税につながる)ことは言うまでもありません。
また、節税対策だけではなく、遺産分割対策としても養子縁組を活用することができます。
可愛い孫に財産を相続させる手段の一つとして(遺言書で遺す方法もありますが)、あるいは献身的に自分の世話をしてくれた遠い親戚の子に財産を残してあげる方法としてなど、本来相続人には当たらない立場の人に遺産を遺す一つの有効な手段として選択されているケースも多くあるようです。
しかし、養子による節税を無制限に認めてしまうと、みんな相続税を払わずに済むようにたくさんの養子をもらおうと考えるでしょう。それでは相続税制度の意味がなくなってしまいますので、相続税における養子は実子がいない場合は2人まで、実子がいる場合には1人までと決められています(これはあくまでも相続税の計算上の話ですので、養子を何人迎えても民法上は何の問題もありません)。
養子縁組をする上で大切なのは、実態です。節税効果だけを目的とする養子縁組は認められません。
また、「法定相続人が増える」という事実は他の法定相続人にとっては大きな問題です。何故なら、法定相続人が増えれば増える程、各法定相続人の取り分が減る可能性が出てくるからです。少なくとも、各法定相続人に法律上最低限保障された遺留分は確実に減ります。
他の法定相続人からの理解を得られるような養子縁組の方法を考えて、ぜひ有効に使って頂きたいと思います。