大ちゃん先生こと、高橋 大貴です。
所有する不動産を賃貸して収益をあげている方、いわゆる「不動産オーナーさん」は、認知症対策が必須です。たとえば、オーナーが認知症を発症して判断能力に問題が生じるようになってしまったら、新しい入居者と契約することも、修繕工事を発注することも、退去時に敷金精算をすることもできなくなってしまいます。大規模修繕工事や不動産の売却なども、もちろん不可能です。お元気なうちに、「二代目への引継ぎ」をしておくことを考える必要があります。
しかし実際は、先代が亡くなった時に突然「二代目オーナー」になる方がほとんどです。お父さんお母さんからノウハウを引き継ぐことなく、不動産オーナー「1年生」になるため、どうやって不動産会社や銀行と折衝したら良いのかわからないという方も少なくありません。認知症対策を考えることは、「事業承継」を考えるとても良い機会でもあります。早め早めに、親子で話し合いをして頂きたいものです。
昨今「家族信託」がとても注目を浴びています。それは、後見人制度などの従来の制度に比べて、家族信託でしかできない様々なメリットがあるからです。しかし「家族信託」だけが、「唯一の特効薬」というわけではありません。
今回は、従来からある事業承継方法(=認知症対策)について、二つお話ししたいと思います。
【 相続時精算課税の制度 】
相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
2500万円までの特別控除枠があり、相続税評価額で2500万円以内の財産であれば、いったんは贈与税を払わずに所有権を移転させることができます。(その分は、相続時に相続財産に加算して相続税で精算します。)
この制度を利用し、「アパートの建物だけ」を、高齢のお父さんから子へ贈与します。(土地は贈与しません)建物の名義が子になれば、不動産賃貸に関わる決定は所有者である子ができることとなり、もしお父さんが認知症になって判断能力に問題が生じても、不動産賃貸業に支障が出ることはなくなります。
元気なうちに実行しておけば、お父さんから子へ、不動産経営のノウハウを継承していくことができるでしょう。
(ポイント)
①所有権を移転するので、その後の家賃収益も子に移転することができる。
②建物の評価額は「相続税の評価額」を使用するため、実勢価格(実際に売却したときの価格)よりも小さくなる。2500万円の特別控除枠内でも、思ったよりも大きな建物が贈与できる場合もある。 他
(注意点)
① 相続時精算課税制度は、贈与税が免除される制度ではなく、その分を相続財産に加算して相続税で課税する制度です。
② 贈与による所有権移転登記に伴う経費(登録免許税・不動産取得税)が、かなり高くなります。(相続や信託による所有権移転登記の方が、格段に安い)
③ 相続時精算課税は、いったん選択すると選択した年から贈与者が亡くなる時まで継続して適用され、暦年課税に変更することはできません。 他
【不動産所有法人の設立】
不動産所有法人の設立とは、新たに親族を株主とする法人を設立し、その法人に個人所有の不動産を売却して所有権を移転させることを言います。いわゆる「法人なり」です。
建物のみを法人に移す場合と、土地・建物の両方を法人に移す場合があります。
「法人なり」は、所得税住民税の軽減対策として実行されることが多いと思われます。しかし、実は効果的な「認知症対策」の一つでもあります。法人は、個人と違って「亡くなったり」「認知症になったり」することがありません。設立当初はお父さんが代表取締役や筆頭株主だったとしても、状況によって役員・株主を代替わりさせていくことが可能です。もしお父さんが認知症になって判断能力に問題が生じても、不動産賃貸業に支障が出ることはなくなるのです。
また、家族で協力して不動産を管理運営していくという取り組みになりますので、お父さんお母さんのノウハウを次の世代に継承していく絶好の機会となります。
(ポイント)
① 不動産収入を家族で分散することができ、所得税住民税の軽減につながる。
② 個人に比べて、経費を作りやすい(修繕積立の経費化など) 他
(注意点)
① 実際に不動産を「売却」するため、多くのケースで短期的には相続税が上がる。
② 赤字でも法人税はかかる。その他、税理士顧問報酬など、様々なランニングコストがかかる。 他
【 とにかく「認知症になる前に」対策を 】
すべての認知症対策に言えることですが、認知症になって判断能力に問題を生じた後では「法定後見人制度」しか打つ手はなくなります。上記の相続時精算課税制度、法人なりはもちろんのこと、家族信託や任意後見人制度、遺言や生命保険、いずれも実行できません。
現実、認知症になってしまってからのご相談が後を絶ちません。皆さま、心配になったら早め早めに相続サポートセンターまでお問い合わせください。