はじめに
葬儀費用や永代供養費について、その範囲や負担者についてあらかじめ決めておかなければ相続人間で争いになるケースがあります。
今回は、葬儀費用等は誰が負担すべきかについてお話ししたいと思います。
1 葬儀費用
現在の世間の考え方では、香典で支払いきれなければ相続財産から捻出し、相続財産でも支払いきれなければ相続人が相続分に応じて支払うといった傾向にあります。葬儀の形式は、宗教や地域の慣習によって異なるため、個々の費用が葬儀費用に該当するかどうかは、個々の事案を社会通念に照らして判断されることになります。
葬儀費用を誰が負担すべきかについて、法律上の規定はないため、以下のようにさまざまな考え方があります。
①共同相続人の負担となるとする考え方、②喪主が負担するという考え方、③相続財産から出すという考え方、④地方ごとの慣習によるという考え方などがあり、いずれとも決まっていませんが、最近では②の喪主が負担するという考え方が比較的有力です(名古屋高裁平成24年3月29日判決)。
同判決は、故人の葬儀を行うかどうか、葬儀を行うにしてもどの程度の規模と費用をかけて執り行うかは、喪主の判断に委ねられているので、喪主の責任において決められた葬儀については、その費用の決定者である喪主が負担するのが当然であるという判断に至ったことになります。
ただし、同判決は、以下の二つの場合は例外としています。
① 故人が生前に自らの葬儀に関する契約を締結していた場合
故人が契約の当事者なので、契約の内容にしたがって葬儀費用の負担が決まります。このような場合は、故人の自己の財産(相続財産)から葬儀費用を支払うと決めていることが多いため、一旦喪主が立て替えて支払ったとしても、相続財産の中から葬儀費用が支払われることとなり、相続人の誰かが自己の固有の財産で負担するということはありません。
② 相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がある場合
相続人全員が各自の相続分に応じて葬儀費用を負担する等の合意がなされれば、その合意に従って負担割合が決められることになります。
遺産分割協議や遺産分割調停で、相続人間で葬儀費用は相続債務として扱うという合意ができ、解決した事例もありますが、相続人間で円満な合意ができない場合、葬儀費用をめぐってトラブルになります。誰が葬儀費用を負担するか・喪主を誰にするかを遺言等で明確にしておくことで相続人間の争いを防ぐことが出来ます。
また、香典ですが、これは葬儀の主催者である喪主に贈られるもので、故人の葬儀費用に充当することを目的としています。喪主への贈与としてみなされているため、香典は相続財産に含まれません。したがって、葬儀費用を支払った後に香典が残ったとしてもその使い道を決められるのは喪主ということになり、他の相続人が分割請求をすることはできません。
2 永代供養費・法要費
永代供養費や告別式以降の法要費については、祭祀主宰者が負担すべきという考え方が有力です。誰が費用を負担すべきか相続人間の争いを防ぐために、祭祀主宰者を誰にするかをあらかじめ話し合いや遺言等で決めておくことが一つの対策といえます。
祭祀主宰者は法律で決め方の順番が定められています。①被相続人による指定、②指定がないときは慣習による定め、③慣習が不明なときは家庭裁判所による指定(調停や審判)といった順です。祭祀主宰者の指定は、被相続人の生前中に行うことも、遺言書で指定することもできます。