どんなに相続対策をしっかり行っていてもスムーズな財産承継が出来ないケースが、ここ数年急増してきました。相続発生前の認知症リスクがあるからです。
認知症等で判断能力が低下すると、最終的には自分で財産を管理したり各種の契約行為をしたりすることが出来なくなります。例えば以下のような行為です。
・日常的な預貯金の払出しや、定期預金・定額貯金の解約
・不動産の処分(売却・賃貸借契約の締結や解除・担保権の設定・取り壊し など)
・不動産の管理(管理委任契約の締結や解除、修繕に関する請負契約の締結 など)
本人の代理として家族がこれらの行為を自由にやれるのであればいいのですが、家族というだけでは法的に正当な権限はありません。預金の引出し等は、キャッシュカードで家族が行っているケースも実際にはあります。しかし、本人の判断能力の喪失を金融機関が知ってしまうと、その時点で本人名義の預貯金口座は凍結され、キャッシュカードでも引き出せなくなります。
賃貸不動産オーナーが認知症になった場合は、管理業者は賃借人との賃貸借契約の締結や退去後の原状回復工事等について、オーナーに意思確認することができなくなります。この場合、オーナーの親族に意思確認をしても法的には無効ですから、賃貸経営に支障が生じます。
つまり、判断能力を喪失してしまうと、本人やその家族でさえも本人の財産を自由に管理・運用・処分することができなくなり、資産が凍結されてしまう可能性があるのです。
本人の判断能力が低下してしまったら、資産凍結を避けるためには法定後見制度を活用するしかありません。法定後見制度とは成年後見制度の一種で、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。
具体的には、判断能力が低下した本人の親族等が家庭裁判所に成年後見人等の選任を申し立てます。その際には、「自分が成年後見人等になりたい」と親族が立候補することもできます。申立て後は、関係者に対して裁判所の職員が事情を訊ねたり、調査や鑑定が行われます。そして、裁判所が後見等の開始の審判を行って成年後見人等を選びます。
選任された成年後見人等は、その後、本人の心身の状態や生活状況を考慮しながら、本人に代わって、財産を管理したり必要な契約を結んだりすることによって、本人を保護・支援していきます。
ただし、法定後見制度を活用すると以下のようなデメリットもあります。
【法定後見制度のデメリット】
①親族が成年後見人等になれない可能性がある
誰を成年後見人等にするかは家庭裁判所が決めます。制度がスタートした2000年当時は親族が成年後見人等に選ばれるケースが90%超でしたが、徐々にその割合は減少し、今では30%を下回っています。その分増えているのが、弁護士や司法書士といった専門職後見人です。「自分が後見人になりたい」と親族が立候補しても、裁判所が「親族では適正な後見業務は無理」と判断して、専門職後見人を選ぶのです。特に、本人の財産や収入が多い場合や親族間に対立がある場合等は、専門職後見人が選ばれる傾向が強くなっています。
②専門職後見人への継続的な報酬が発生する
専門職後見人が選ばれると、報酬が発生します。本人の財産額1千万円超の場合で月3~4万円、5千万円超なら月5~6万円です(ただし地域差あり)。更に、例えば自宅を売却する等の特別な後見業務を行った場合は、数十万円単位の報酬が別途必要になります。
③家族が望むような自由な財産の管理・運用・処分や相続税対策が困難になる
成年後見人等は、行った業務の内容を定期的に家庭裁判所に報告したり、必要な指示等を受けたりしなければなりません。本人の利益に反する行為は、仮に本人が元気なときにそれを望んでいたとしても、裁判所が原則認めません。つまり、本人の財産が間接的に裁判所の監督下に置かれるようなものです。親族への贈与や貸付、同族法人への資金拠出、財産の投機的な運用等は不可。相続税対策のための不動産の購入・建設等も、本人ではなく残される家族のためのものであるとして認められません。
④本人が亡くなるまで後見業務が続く
一旦成年後見人等が選任されたら、その業務は原則本人が亡くなるまで続きます。その間、本人の財産は裁判所の監督下に置かれ続け、専門職後見人への報酬の支払いもずっと続くのです。
何も対策をしないまま認知症等で判断能力が低下してしまうと、もう法定後見制度を活用するしかありません。確かに本人を保護・支援するためには大変有効な制度ですが、前述のとおり使い勝手の悪い面が多々あることも事実です。
そこで、将来認知症等になったとしても法定後見制度に頼らなくて済むように、元気なうちに対策をしておきましょう。弊社では、本人や家族の状況・希望に応じて、贈与・任意後見契約・委任契約・家族信託等を組み合わせた対策を積極的にご提案しています。是非お早めにご相談ください。