1 相続人の廃除
例えば、相続人である長男から虐待や侮辱を受ける等をして、長男だけには遺産を渡したくないと考えることがあると思います。そのような時のために「相続人の廃除」という制度があります。
この制度は、相続財産を遺す者の意志に基づいて、相続人の相続権を剥奪することができます。ただし、代襲相続には影響しないので、相続廃除された者の子は代襲相続することができます。
廃除できる相手は、遺留分をもった推定相続人(配偶者、子供、両親や祖父母の直系尊属)に限られます。
遺留分がない兄弟姉妹に相続させたくない場合には、遺言で相続させないことができるので、廃除する必要はなく、廃除の対象となりません。
廃除された相続人は、相続財産を遺す者が「廃除の取消し」をしない限り何も相続することはできません。
廃除事由(民法892条)
1 被相続人に対する虐待
2 被相続人に対する重大な侮辱
3 その他の著しい非行(財産の大部分を勝手に処分した、重大な犯罪(強盗、
殺人等)を犯した等)
★廃除を認めた判例
東京高裁平成4年12月11日判決
小・中学校のころから非行を繰り返した当該相続人(被相続人の次女)が、父母が婚姻に反対なのに暴力団員と婚姻し、父の名で披露宴の招待状を印刷し、父母の知人等にも送付した行為により、相続人の資格剥奪が相当(廃除認定)とされた事例。
★廃除を認めなかった判例
東京高裁平成8年9月2日判決
推定相続人の虐待、侮辱、その他の著しい非行が相続的共同関係を破滅する程度に重大なものであるかの評価は、相続人のとった行動の背景の事情や被相続人の態度及び行為も斟酌考慮したうえでなされなければならないが、相続人(長男)の力づくの行動や侮辱と受け取られる言動は、嫁姑関係の不和に起因したものであって、その責任を相続人にのみ帰することは不当であり、これをもって廃除事由に当たるとするとはできないとした事例。
※「虐待」「侮辱」「非行」がどの程度であれば廃除が認められるのか、判断するのはあくまでも家庭裁判所です。
相続人の廃除の手続き
1 相続人の廃除の手続きには、下記図のように二通りの方法があります。
2 推定相続人廃除届の提出(市町村役場)
家庭裁判所で相続人の廃除が確定すると、10日以内に「推定相続人廃除届」を市町村役場へ提出します。廃除された相続人の戸籍には、その旨の記載がされます。
以上の手続きで、特定の推定相続人を廃除する手続きは完了です。
相続人の廃除の取消し
財産を遺す者は、相続人の廃除の手続きによって廃除した相続人について、いつでも家庭裁判所に「廃除の取消し」を請求することができます。
廃除の取消しは、財産を遺す者が生前に行うときは本人が、遺言書で行うときは遺言執行者が家庭裁判所で手続きを行います。
廃除の取消しが行われることで廃除の効果が消滅し、廃除されていた相続人は財産を相続することができるようになります。
相続廃除と相続欠格との違い
相続廃除では被相続人の意思に基づく手続きが必要なのに対し、相続欠格では、欠格事由に該当した時点で、法律上当然に相続権が剥奪されます。
2 あらかじめ遺留分の放棄をさせる
例えば、被相続人には妻と長男がいた場合、「妻に財産を全て相続させる」という遺言書を残し、長男には遺留分を放棄させれば、妻に財産の全てを相続させることができます。
ただし、遺留分の生前放棄は家庭裁判所の許可が必要で、「遺留分放棄の許可の審判」を請求することになります。家庭裁判所が調査をし、この放棄について正当な理由があるかで判断されます。
(1)放棄が本人の自由意思に基づくものであること
(2)放棄の理由に合理性と必要性があること
(3)代償性があること(特別受益分があるか、放棄と引き換えに現金をもらう
など代償があるなど)
などの事情を総合考慮して、遺留分の放棄を許可するかどうかを家庭裁判所が判断することになります。
最後に
廃除は「相続人の地位を奪う」という強力な効果を持つ制度なので、裁判所もその運用については、慎重な姿勢をとっております。相続廃除を申し立てられた相続人は、当然異議申し立てをすることができるので、認められることの方が少ないようです。
推定相続人の具体的な言動、その言動に至った経緯、被相続人側の落ち度の有無、被相続人と推定相続人との関係性等の様々な事情を考慮して、推定相続人の廃除を認めるべきかどうかの判断がなされます。