親が認知症等で判断能力に問題が生じてくると、その資産は凍結されます。預貯金口座からの日常的なお金の出し入れは勿論、定期預金(定額貯金)の解約も出来なくなります。また、不動産を売ったり貸したりすることも同様に不可です。
そのような事態に備えるための方策として家族信託の活用が広まってきていることは、当メルマガにおいても既にお伝えしてきました。
そんな中でも最近特に相談が多くなってきているのが、「親が高齢者施設等に入所したり子の家に同居したりした後、実家を空き家にしないため」の家族信託の活用についてです。
何も対策を講じないまま親が判断能力を喪失してしまった場合、実家を売却しようと思ったら家庭裁判所に申立てて「成年後見人」を選任してもらうしかありません。しかし、成年後見人を付けることには様々な問題が生じる可能性があります。
① 後見人選任の申立てをするまでに一定の時間と労力がかかり、申立てをしてから実際に後見人が選任されるまでにも数ヶ月間を要する
② 親族が後見人として選任される可能性が低い(弁護士・司法書士等の専門家が選任される傾向が強い)
③ 選任された後見人が家庭裁判所に不動産売却の許可を求めなければならないが、許可されるとは限らない
④ 専門家が後見人に選任された場合、毎月報酬の支払いが発生する
⑤ 不動産が無事に売却できてもできなくても、後見業務はそこで終了せず、原則として親が亡くなるまで継続する(=後見人への報酬支払いも継続)
そこで家族信託の活用です。
親が元気なうちに、実家を信頼できる子供に信託して所有者名義を変更しておきます。この時、贈与税や不動産取得税は発生しません。このようにしておけば、将来親の判断能力が喪失しても受託者である子供の判断と手続きでいつでも実家を売却して金銭に換えることができます。売買交渉や決済実務も、全て子供が行うことができるのです。勿論、売却に際して家庭裁判所の許可は一切不要です。売却で得た金銭は受益者のものですから、受益者を親としておけば、受託者である子供がこの金銭を管理しながら、親の施設の利用料や療養費等、親のために自由に使うことができます。
「いや~そうは言っても実家売却に関する判断の全てを子供に委ねるのも、ちょっと心配で・・・」という方は、何らかの制限を設けることも可能です。例えば同意者の設置です。別途信頼できるAさんを同意者として指定しておけば、「受託者である子供が実家を売却するには、Aさんの同意が無いとできない」ということになり、不必要な売却や不利益な売却の抑制に繋がることが期待できます。
ただし、そもそも家族信託の最大のメリットは受託者による柔軟な財産の管理・運用・処分にあるわけですから、そこにあまりにも多くの制限を掛けるのも考えものです。その辺りは、専門家の意見を参考にしながら、現実的かつ必要最小限の制限に留めておく方が望ましいかもしれません。
「実家を空き家にしないため」の家族信託の活用を特に考えておかなければならないのは、将来誰も住む予定がない実家をお持ちの方です。
当社では、家族信託に関するご相談の受付から具体的な信託組成、アフターフォローまで、弁護士司法書士・税理士といった専門家とともにご支援させていただいております。まずはお気軽にご相談ください。