中小企業の株式に係る相続税・贈与税が0円になる「新事業承継税制」が平成30年度の税制改正で創設されました。
会社の業績が順調な中小企業の経営者にとって、自社株式の承継は相続税や贈与税などのコストが大きくなることがあり、承継をためらうことも多いと思います。結果として後継者が会社の承継を断念する、という結論を出すことも少なくありません。
このようなケースによる廃業を防ぐために、平成21年度改正で「事業承継税制」が創設されたわけですが、適用にあたっての要件が多く、満たさなかった場合のリスクが高いこと、また納税が猶予・免除されても最終的に相続税で発行済株式の2/3まで80%相当額、すなわち全体の約50%程度しか免除にならないことから、利用する中小企業は多くありませんでした。
そこで、今回の改正では「新事業承継税制」を創設し、要件の大幅な緩和と100%の猶予・免除に改正されました。新事業承継税制の概要を簡単にご説明します。
1.概要
経営者が保有する自社株式を、後継者に贈与又は相続により渡す際、一定の要件を満たす場合に生じる課税を一旦猶予し、贈与者の死亡時(ただし相続財産に加算)又は次の後継者への承継時に納税が免除される制度です。
新事業承継税制は、税理士などの認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた「特例承継計画」を作成して、平成30年4月1日から平成35年3月31日までに都道府県に提出することで適用を受けられます。
2.対象株式と猶予割合
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改正前 |
改正後 |
対象株式 |
発行済株式×2/3 |
全株式 |
猶予割合 |
相続税80%(贈与は100%) |
相続税100%(贈与も100%) |
3.主な適用要件
主な適用要件 |
内容 |
先代経営者の要件 |
□会社の代表者であったこと □同族で議決権50%超保有していること □代表者のときに同族内で筆頭株主であったこと □先代経営者以外の所有株式からの承継も対象(新設) |
後継者の要件 |
□代表権を有していること □同族で議決権50%超保有すること □同族内で筆頭株主となること □役員経験3年以上(相続は相続開始前) □代表権を有する複数人(最大3名)への承継も対象(新設) |
対象会社の要件 |
□中小企業者であること □非上場会社であること □資産管理会社、風俗営業会社に該当しないこと □従業員1人以上、売上がゼロを超えること |
経済産業大臣の認定 |
□経済産業大臣の認定を受けていること |
担保提供の要件 |
□納税猶予税額及びその利子税相当の担保を提供すること |
事業継続要件 (5年間) |
□株式を譲渡等しないこと □後継者が代表権を有していること □5年間平均で雇用の8割以上を維持すること 8割未満でも一定の書類提出手続きで猶予継続可(新設) □資産管理会社等に該当しないこと □先代経営者が代表権を有することとならないこと(贈与のみ) |
その他 |
□相続時精算課税制度との併用可(親族以外も対象(新設)) |
対象株式や猶予割合の上限も撤廃され、一番のネックであった従業員の雇用確保要件も満たせなかった場合の手当がされたため、本制度の利用を検討される経営者も多くなると見込まれます。
今回の「新事業承継税制」は、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの10年間の期間限定措置となっておりますので、中小企業の経営者は早めに検討する必要があります。「特例承継計画」は平成35年3月31日までに提出する必要がありますので、本制度を検討される方は、まずは計画だけでも先に提出しておくのはいかがでしょうか。