最近では、TVや雑誌などで相続の特集が組まれることが多くなり、法定相続分や遺留分、といった用語が徐々に一般の方にも浸透し始めてきました。
今回は遺留分の請求があった場合の相続税申告の取り扱いにつき解説します。
まず、遺留分とは、民法で定められている法定相続人(兄弟姉妹を除く)に保証された最低限の相続分のことをいいます。
遺言などにより、遺留分を確保できない法定相続人は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内であれば、本人の遺留分よりも多く財産を相続した他の相続人や受遺者に対して、遺留分減殺請求をすることができます。
遺留分減殺請求の方法は、決まった方式はありませんが、①相手に直接交渉する、②調停(裁判)で争う、の2パターンが考えられます。
①相手に直接交渉する
遺留分減殺の意思表示を相手に行います。相手に遺留分を請求したことの証拠を残すため、「内容証明郵便」を使うことをおすすめします。相手との交渉で財産の分割に合意が得られた場合、「合意書」または「遺産分割協議書」を作成し、書面に残します。相続税の申告の際もこれらのコピーを添付することになります。
②調停(裁判)で争う
①で減殺請求に応じない、合意できない場合、遺留分減殺請求調停を家庭裁判所へ申し立てします。調停の結果、決着がついたら「調停調書」が作成されます。もし、調停でも決着がつかない場合は、地方裁判所または簡易裁判所に訴状を提出して訴え提起することになります。
次に、遺留分減殺請求により財産が減少又は増加した場合の相続税の手続きについて解説します。
Ⅰ.相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに遺留分減殺請求がされ、各人の取得する財産が確定した場合
このケースでは、最終的な財産の取得に応じて相続税の申告を行います。
Ⅱ.相続税の申告期限後に遺留分減殺請求で各人の取得する財産が確定した場合
まずは相続税の申告期限までに、遺言に基づき相続税の申告を行います。
その後、遺留分減殺請求により取得する財産が変動した場合は、それぞれ以下の対応となります。
①遺留分減殺請求により財産が減少した人(甲)
甲が当初に申告した際の取得財産が減少した場合、相続税を納め過ぎたことになるため、相続税の更正の請求により還付を受けることができます(こちらは「しなければならない」ではなく、あくまで「できる」規定です)。 更正の請求を行う場合は、弁償すべき額が確定した日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。
②遺留分減産請求により財産が増加した人(乙)
乙が当初に申告した際の取得財産が増加した場合、納付すべき相続税額が増加することになります。この場合、甲が更正の請求を行い、相続税額の還付を受けた場合は、相続税の修正申告をしないと税務署長が相続税額の決定を行うこととされています。 すなわち、甲が更正の請求を行う場合は、乙は更正の請求の期限に合わせて修正申告を行う必要があります。一方で、甲が更正の請求をしない場合は、乙は修正申告をしなくてもよいこととされています。
一般的には、遺留分の減殺請求が行われると、対象となる財産の確定・相手との交渉に期間を要するため、相続税の申告期限後に財産が確定するケースが多くなります。
その場合には、相続税の総額が変動しなければ、更正の請求・修正申告は行わず、当事者間で遺留分の金額算定に相続税額の増減額の精算を行い、当初申告のままで新たな税務手続を行わない、といった選択肢もあります。
遺言書を作成する方が増えてきたことに伴い、今後は遺留分の減殺請求が行われることも増加することが見込まれます。
遺留分の減殺請求がある相続税申告を行う場合には、上記の取り扱いを参考にしてはいかがでしょうか。