「実印」や「印鑑登録」というと、私たち日本人には馴染みのものですが、印鑑を登録する制度というのは日本の他に韓国、台湾という限られた国でしか行われていません。
その代わりとして、欧米諸国をはじめとする多くの国では印鑑ではなく「サイン」が利用されていることは皆さんもよくご存じでしょう。日本に住んでいても、クレジットカードで買い物をした時などにサインを求められますので、随分サインをする習慣というものも浸透しているのではないかと思います。
しかし、いくら「サイン」をする文化が身近になっているとしても、家を買って不動産登記をする場合や車を購入する場合など、何かにつけて「実印」と「印鑑証明書」を要求されることが多いのは事実です。
相続もまた然り。遺産分割協議書や相続税申告の際など、手続きにおいて実印と印鑑証明書が必要になります。
今までのサポートニュースをご覧になった皆様はご存じでしょうが、遺産分割協議書というのは相続人全員の実印と印鑑証明が必要になりますので、もし相続人の一人でも海外在住の方がいらっしゃる場合は、「印鑑」の壁に突き当たる可能性があるということになります。国際化が進む昨今ではこのようなケースも少なくありませんので、本日は印鑑証明書が取れない方の手続きについてお話していきたいと思います。
日本においては不動産登記やローンの借り入れなど、さまざまな手続きの場面で印鑑証明が必要になります。日本に居住している方は、印鑑登録をしておけばすぐに印鑑証明書を準備することができますので、それほど不自由に感じたことはないかもしれません。
しかし、日本での住民登録を抹消して外国にお住まいの方は、住民登録抹消と同時に印鑑登録も抹消されてしまいます。そこで、法務局や銀行等では、海外に在留している日本人に対しては印鑑証明に代えてサイン証明の提出を求めています。サイン証明とは、日本に住民登録をしていない海外に在留している方に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので、申請者のサイン(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
サイン証明をとるためには、関係書類とパスポートを持って申請者本人が現地日本領事館に出向き、係官の面前で関係書類にサイン(もしくは拇印)を行います(国によって必要書類が異なる場合がありますので、必ず事前に確認することをお奨めします)。これにより間違いなく本人が署名したということを証明してくれますので、このサイン証明書と関係書類を綴り合せて割り印をもらいます。(サイン証明書を単独でとる方法もあります。)
また領事館に行く以外にも、日本の公証役場に行く方法があります。これは「認証」という手続きで、サイン証明同様、公証人の面前で関係書類にサインをすることで間違いなく本人がサインしたことを証明するものです。公証役場に行く場合も、関係書類とパスポートか運転免許証、そして手数料が必要になります。この手数料は一般的に5,500円ですが、必要書類や手数料については必ず事前に確認してから行きましょう。
サイン証明も認証も、係官の面前で署名をするという点が重要になります。領事館、公証役場に持参する遺産分割協議書には、うっかり事前に署名をしないように十分にご注意下さい。
海外在住の方が相続人である場合、その人が日本に帰って来ている間にいかに効率よく手続きを進める事ができるかということが大切になります。もし相続税が発生する可能性がある場合は、10ヶ月以内に申告をしなければならないという制限もありますので、さらに注意が必要です。
ただし、このような事態をできる限り回避する方法があります。それが「遺言書」です。有効な遺言書がある場合は、遺産分割協議をする必要がありませんので、手続きがスムーズになります。海外在住の相続人は、相続登記をする場合などの手続きによってサイン証明が必要となる場合がありますが、遺産分割協議書の作成が不要となれば幾分か手続きが楽になるでしょう。その他の相続人に関しては、相続分の財産に関して単独で手続きができますので、非常に負担が軽減されます。
親族が亡くなった時、あまりの手続きの多さや煩雑さに、悲しんでばかりもいられないという声をよく聞きます。しかし、日頃から十分な知識を蓄え、生前から備えておくことで遺族の心の負担が少しでも軽減されれば、より一層幸せな相続に近づくのではないでしょうか。