皆さんこんにちは、税理士の太田圭子です。
さて今日は遺言書があるのに預金が解約できないトラブルについてのお話です。せっかく将来の「争続」を避けるために遺言書を作成しても、遺言書の作り方やその他の要因によって、遺した預金を相続人が解約できないことがあります。
いったいなぜでしょうか?その原因について解説します。
原因は金融機関の内部規定にある!
相続財産である預金の解約手続は、それぞれの金融機関が独自に定める内部規定に沿って進められます。その規定により正当に作成された遺言書であっても、以下のような場合、預金が解約できないことがあるのです。
1. 公正証書遺言ではない遺言書の場合
手書きの遺言書で預金を解約しようとした場合、相続人全員の実印を求められることがあります。例えば相続人が長女と次女の二人で、遺言書に「次女に預金のすべてを相続させる。」と書いてあっても、次女が預金を相続するために一人で手書きの遺言書を持参して窓口に訪れた場合、金融機関は後々のトラブルを避けるために、簡単には解約に応じてくれず、解約の書類にもう一人の相続人である長女の実印も求めてくるのです。長女と次女の仲が悪い場合や、遺言の内容について長女が納得しない場合、長女に実印を押してもらうのには多大な時間と労力が必要かもしれません。預金を解約するまでの間に発生する相続税や相続費用の支払いはご自身で捻出しなければならなくなります。
2. 遺言執行者を定めていない場合
金融機関によっては遺言執行者がいない場合、公正証書遺言があっても、他の相続人全員の実印を求められることがあります。そうなると1の場合と同様に他の相続人の協力なしでは解約手続きが進みません。遺言執行者とは遺言の手続きをする一切の権限を持つ者で、遺言書を作る際に、ご自身で信頼できる誰かに頼む必要があります。未成年者や破産者でなければ誰でも遺言執行者になれますが、次の3のような場合もありますので、遺言執行者を選ぶときは注意して下さい。
3. 遺言執行者を相続人や親戚にした場合
金融機関によっては、遺言執行者が法人や弁護士、税理士、行政書士などの士業以外の一般の方である場合、遺言執行者本人が金融機関窓口に公正証書遺言を持参して預金を解約しようとした場合でも、相続人全員の実印を求められることがあります。特に高額な預貯金の解約に対しては慎重な対応をする金融機関が多いようです。
従って誰を遺言執行者にするかは慎重に決めるべきでしょう。
4. 同じ金融機関に借金がある場合には簡単に解約できない
仮に公正証書遺言があり、士業の遺言執行者を選んでいた場合でも、その金融機関からの借金があると、通常その借金の引継ぎ手続きが完了するまでは預金は拘束されることになります。不動産オーナーが融資を受けて賃貸物件を購入する場合、その賃貸物件に係る家賃入金口座を借金返済口座と同じ口座にすることが、融資条件に入っていることが多く、結果として借金がある金融機関に遺産となる預金の大部分が残ってしまいがちです。そうなると借金の引継ぎ手続きが難航した場合、預金の解約に相当の時間を要すことになってしまいます。
以上のように、遺言書があっても簡単に預金が解約できず、トラブルとなる例も多々あります。7月10日から開始される「自筆証書遺言書保管制度」により、法務局で保管してもらえる遺言書についても、預金を解約する場合には金融機関がどのような内部規定を作っているのか、まだ不明です。今のところスムーズに預金を相続させるには公正証書遺言の作成と、遺言執行者の選定が重要といえるでしょう。