東京高等裁判所で、2020年6月24日に、不動産鑑定評価額を相続税評価額とする判決が出ました。この裁判の経緯は次の通りです。
・相続発生の約3年前 :
被相続人が10億円の借入と自己資金3.8億円により賃貸用不動産AとBを購入
・相続発生9ヶ月後 :
取得した賃貸用不動産Bを約5億円で売却
・相続税申告 :
賃貸用不動産AとBを財産評価基本通達に基づき約3.8億円の評価として申告
・時期不明 : 税務署が鑑定評価による更正決定を行う
・裁判に発展 : 一審の東京地裁では税務署側が勝訴 (2019年8月29日)
二審の東京高裁でも一審判決を支持 (2020年6月24日)
私としては、不動産の価値とは何なのかを考えさせられる事件でした。
そもそも、相続税では財産を「時価」で評価することになっております。(相続税法第22条)
しかし、納税者や税理士が財産全てを時価評価することが難しいことや、納税者間の公正を保つために、財産評価基本通達というものを使って簡易的に評価することになっております。
ところが、財産評価基本通達の第6項には「この通達による評価が著しく不適当な場合は国税庁長官の指示を受けて評価する」とあります。
つまり、①原則は時価→②時価とは財産評価基本通達による計算→③例外として時価、というややこしい構造になっております。
今回の裁判では、②の原則なのか、③の例外なのかを争っていることになります。
納税者からすれば、事前に法令等に則って将来の納税額を予測し、節税策を実行しただけですから、ドンデン返しにあった気分だと思います。税務署からすれば、不当に相続税を圧縮してけしからん、ということになるでしょう。最高裁でどのような判断が下るかはわかりませんが、今後も注目したいと思います。
今回の裁判で否定されたのは「賃貸用不動産により相続税を圧縮したこと」ではないのでご安心ください。あくまで「圧縮額が大きすぎること」が問題でした。判決文には「節税が目的だったこと」「被相続人が高齢であったこと」も理由として挙げられておりますが、それは他の事例にも言えることです。
また、判決文には記載がないですが、相続発生後すぐに不動産を売却したことがすこぶる心証を悪くしていると思います。相続税は0円だったそうなので納税資金は不要ですし、相続後3年くらいは所有して税務調査を一旦スルーしておけばよかったのにと思います。
他にも、不動産の価値が問題となるケースはいくつか考えられます。
●ケース(1) : 新型コロナウイルスの影響で時価が下がった場合
毎年の路線価や固定資産税評価額は1月1日の価格として公開されています。そのため、1月2日以降に新型コロナウイルスの影響により時価が著しく下がった場合には、不動産鑑定による評価が良いかも知れません。しかし、鑑定には費用がかかります。鑑定費用と鑑定評価による節税額を比較検討する必要があります。
余談になりますが、国税庁の令和2年の路線価発表のページには、「鑑定評価で評価してもよい」という一文が書いてありました。令和元年にはこの記載はなかったので、なかなか画期的な事件です。
●ケース(2) : 地方の山林や田畑などに価値はあるのか
財産評価基本通達に基づくと、地方の山林や田畑、果ては荒れ地や私道、水路まで評価の対象になってきます。山林や田畑を宅地化するのに実際には多額の費用がかかるにも関わらず、財産評価基本通達による造成費がはるかに少ないケースもあります。
相続税法が時価によるのであれば、貸すことも売ることもできない不動産は評価0円となっていいはずです。
そういう不動産については、固定資産税は地方税(市町村税)で相続税は国税だから課税主体が違うと言われればそれまでですが…