昨年4月に創設された配偶者居住権。残された妻※が、夫※亡き後も住み慣れた自宅に住み続けることができる権利であり、高齢化社会の問題解決策としての役割に加え、二次相続においては相続税の節税が期待できるということも明らかになり、注目を集めています。しかし、この配偶者居住権については取扱注意な点も多々あるため、今回は気を付けたいポイントを紹介いたします。
(※法律上は「妻」、「夫」に限らず「配偶者」となります。)
1. 思わぬ税金が課税されてしまうことがある。
仮に妻が配偶者居住権を、子がその自宅の所有権を相続したとします。妻の存命中、諸々の事情によりその自宅を第三者に売却しようとした場合、配偶者居住権がついたままの自宅が売却できるとは考えにくく、当然この配偶者居住権を消滅させて売却することになります。この場合に妻が配偶者居住権を無償または著しく低い対価で放棄すると、所有者である子に贈与税が課税される可能性があるのです。
これを回避するためには、妻は子から配偶者居住権の消滅に対して対価の支払いを受ける必要がありますが、そうなると今度は対価の支払いを受けた妻に譲渡所得税の課税リスクが生じます。なお配偶者居住権の消滅の対価については、マイホームを売却したときに使える3,000万円の特別控除は今のところ適用できないようです。残された妻がその後、老人ホームなどに転居する可能性は高く、これらの課税リスクについては、今後何らかの法的手当てが望まれるところです。
2. その後の固定資産税や修繕費の負担は誰がする?
配偶者居住権を妻が取得した後、固定資産税や簡易な維持修繕費は妻が負担することになります。一方で火災、地震等で被った大きな損害に係る修繕費や、リフォーム費用などは所有者である子が負担すべき費用と考えられています。親子間の折り合いが悪いとトラブルとなってしまうかもしれません。また、妻が老人ホームなどに住み替える場合には、住んでいた自宅の原状回復義務を負うと定められていますので、この点も思わぬ出費を招く可能性があります。
3. 遺言書に書いても認められない場合がある。
次の場合では遺言書に記載があっても、配偶者居住権を遺贈することはできません。
① 内縁の妻や同性パートナーには使えない
この配偶者居住権は亡くなった方と法律上「婚姻」していた者のみに認められるため、事実婚のパートナーに対しては、認められません。また、今現在わが国においては同性カップルの婚姻は認められておらず、同姓パートナーに対しても同様です。
② 夫が亡くなった時点で妻が既に老人ホームなどに入所していたら認められない
入院などの一時的な場合を除き、妻がすでに終身利用の老人ホームなどに住んでいる場合、「居住していた」という要件を満たさずに、配偶者居住権を取得させることはできません。
③ 自宅が共有だった場合には認められない
夫の生前、自宅が夫と子供の共有であった場合など、妻以外の第三者との共有であった場合には配偶者居住権の設定は認められません。
④ 令和2年4月1日より前に作成された遺言書については認められない
例え、相続が開始したのが令和2年4月1日以後であっても作成された日が法施行日前のため無効となります。
4. 最後に
残された妻に安心を、二次相続では節税をもたらす策となり得る配偶者居住権。但しその適用にはリスクも含んでいますので、遺言書の作成や遺産分割協議において検討する場合には、必ず専門家のアドバイスを受けましょう。