「養子縁組による相続対策」という話を聞いた事がある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
例えば、自分の孫を養子にする場合。
養子縁組を行うと、養子は、実子と同じ嫡出子という扱いになり、法定相続人の数が増えます。
相続税の計算は、法定相続人の数が多ければ多い程、税額が安くなる計算方法をとっていますので、その結果として相続税の節税につながるわけです。
また、「祖父→息子→孫」と2回に渡って相続税が必要となるところ、「祖父→孫」と、息子を飛び越しますので、相続税が1回で済むことなります。このように養子縁組は、使い方によって大変便利な制度ですが、法律でその内容が事細かに決められておりとても複雑です。
本稿では、実際にあった、孫が相続した祖父の土地を売却する事例をご紹介致します。
〈登場人物と土地について〉
〈時系列〉
1.平成19年 Cが夫と離婚し、Dの親権者をCと定める。
2.平成20年 A・Bは、D(当時7歳)を養子とする共同養子縁組を行う。
(養子が未成年者である場合、子の福祉を増進する為、夫婦共同で養子縁組をしなければならない
(民法795条本文))
3.平成21年 Aが死亡→土地 eをDが相続する遺産分割協議が成立し、D名義となる。
4.平成29年 Bが死亡
5.令和2年 CがD(当時19歳)所有の土地eを売却するため、不動産業者に相談。
〈検討事項〉
さて、Dは未成年者ですから、そもそも単独で法律行為を行う事が出来ず、その法定代理人の同意を得るか、法定代理人が未成年者に代わって、法律行為を行うことになります(民法第5条本文、民824条)。通常は、父母の共同親権に服することになります(民法第818条Ⅰ、Ⅲ)。
父母が協議離婚する際は、父か母のどちらかを親権者と定める必要があります(民819条Ⅰ)。(時系列1に該当。本事例では、Cを親権者と定めた。)
未成年者が養子縁組を行った場合、養親の親権に服することになり、実親の親権が喪失します(民818条Ⅱ)。(時系列2に該当。本事例では、A・Bが親権者となり、Cの親権が喪失した。)
親権者の一方が死亡したときは、他の一方の単独親権になるとされています。(時系列3に該当。本事例では、Bの単独親権となった。)
問題) 養父母が両方とも死亡した場合、実親の親権が回復するのでしょうか?(時系列4に該当。本事例では、Cの親権が回復するのか?)
回答) 実親の親権は、回復せず、未成年後見が開始するとされています。
直感的には、「実親が生きているのであれば、実親へ、親権が自然移行するのでは?」と思ってしまいますが・・・・実際にはそうならないのです。理由として、実親のネグレクトが原因で、養子縁組を行う場合もあり、当然に、実親に親権を戻す事が子の福祉になるとは限らないからです。
従って、本事例に登場するCは、Dの親権者ではなく、Dに代わって、土地 eの売却の手続をすることが出来ないということなります。
では、D所有の土地 eを売却する場合、どうすれば良いのでしょうか?
方法① : CをDの未成年後見人とする審判の申立を家庭裁判所に行い、CがDの未成年後見人となってから土地 eの売却を行う。
方法② : A・BとDの養子縁組を解消する。
「A・Bが既に死亡しているにも関わらず、Dから離縁を申し立てる事が出来るのか?」と思ってしまいますが、実は、家庭裁判所の許可を得れば可能です。家庭裁判所の許可が必要となるのは、養父母が生存中はしっかり扶養して貰って、相続で貰うものは貰っておいて、養父母の親族に対する扶養義務や祭祀を免れたいという不純な理由に基づくものではないか等を審理する為です。
この死後離縁ですが、死後離縁を行った場合、実親の親権が回復するとされており(⇔死亡)、CはDの親権者として土地 eの売却が行うことが出来るようになります。
この場合、「死後離縁によって、土地 eの相続権が失われないのか?」と疑問に思いますが、死後離縁は、既に生じた相続について、影響がありません。
本事例では、方法①と②のメリットとデメリットをお話して、方法②の死後離縁が認められそうでしたので、死後離縁で進める事となり、約1ヶ月ほどでお手続きも終わり無事ご売却となりました。
もし、未成年後見や死後離縁のお手続きを行わず、CがDに代わって、土地eの売却を進めた場合、無権代理となり、勿論、登記も通りませんので、大変な事になるところでした。
因みに、未成年後見人は、遺言で指定することも出来ますので、未成年者を養子とした養父母は、その死後、スムーズに未成年後見を開始させる為、遺言を残しておくことをおすすめいたします。