税理士の山方です。昨年2020年は、様々な社会的ルールや行動が、大きく変わった1年でした。今回は、昨年の相続実務で感じた事をご報告いたします。
1. 相続人が一同に会する機会が減少しました。
コロナウイルス感染防止の影響により、家族が一同に会する機会が、圧倒的に減少しました。これは相続事例に関しても同様です。
遺言のない状態で相続が発生すると、相続人全員で遺産分割協議を行い相続財産の配分を決めます。しかし昨年からの外出自粛要請や実家に高齢の母親や父親がいるという事情から、家族が一同に会することが非常に困難な状況となりました。そのため、相続人同士が一度も実際に会うことはなく、電話連絡のみで分割協議を進めるパターンが主流だったように思います。
2. 遺産分割協議における一同集合の重要性
遺産分割協議において、最も重要な事は「揉めない」という事です。相続争いになってしまうと非常に大変です。私情も入り乱れて裁判は長期化し、その間の弁護士費用や身体的・精神的苦痛は計り知れません。
そのため私は遺産分割協議に当たっては、最低一度は税理士等の第三者を交えたうえで相続人全員が一同に会する機会を設けることを推奨しています。
理由は次の通りです。
①情報共有の確認
②不信感の払拭
③他人の目があることでの、冷静さの確保
まず ①「情報共有の確認」について。
遺産分割協議とは複数人での交渉です。各人の認識がバラバラでは交渉は纏まりません。遺産分割協議における「スタート」と「ゴール」、そして「各人がなすべきこと」を認識・共有することが、円滑な話し合いの肝になります。
次に ②「不信感の払拭」について。
遺産分割協議のシーンにおいて最も怖いのは、疑心暗鬼です。
「税理士までつけて自分を騙そうとしているんじゃないか??」「ほかの相続人だけで話を進めているんじゃないか??」一度疑いだすと、なかなか誤解は解けません。
全員で会ったからと言って、こういった誤解を完全に払拭できるわけではありません。しかし交渉の早い段階において、一同に会し各人が自分の言葉で話すことにより、かなりそういった疑念を軽減できると思います。
最後に ③「冷静さの確保」についてです。
前向きな交渉を進めるうえで最も重要な事は冷静さです。一対一、特に家族間での話し合いとなると頭に血が上ってしまい、つい言わなくていい事を言ってしまうという事もあるかもしれません。こうなると話し合いどころではありません。
しかし周りに人がいると、意外と冷静さは保てるものです。交渉自体は一度で終わるわけではありません。それでも、交渉のスタートが冷静なものであれば、その後の話し合いに良い影響を与えるものと考えます。
以上の事から、遺産分割協議においては、一度全員で顔を合わせる事が重要と考えます。
3. 遺産分割協議のこれからの在り方
一同に会することの重要性を散々語りましたが、はっきり申し上げて現状で家族全員が集合するというのは、現実的ではありませんしお勧めもしません。
現状において考えられる対策は、ビデオ通話の積極的な導入です。顔が見える分、電話よりは伝わりますし、複数人での会議も可能です。
ご自宅にパソコンがないという方もいると思います。しかし、「ビデオ通話用」と割り切れば比較的に安価にパソコンやタブレットは購入できます。最初の設定さえクリアすれば、あとは簡単な操作で通話は可能です。「自分は電話で十分」と割り切っていた方も、そろそろ導入を検討してみるいい機会なのかもしれません。
4. 相続争いが増えていく?
ビデオ通話の導入を対策として申し上げましたが、あくまで「苦肉の策」というのが本音です。ビデオ会議というのは、実は結構なコミュニケーション技術を要します。又ある程度のデジタル技術も要求されます。実際私も本当に重要な議案については、ビデオ会議ではなく実際にお会いするように使い分けています。(細心の注意・対策を施した上です。)デジタル技術への適応には、私も含め今しばらく時間を要するのかもしれません。
こうなると懸念されるのは、意思疎通の欠如による相続争いの増加です。
コロナにより、遺産分割協議の難易度は非常に高まったと感じます。
5. やっぱり遺言が一番!
ずっと遺産分割協議を前提に話を進めましたが、遺言さえあれば基本的に遺産分割協議をする必要はありません。遺言さえあれば、本来の財産の所有者であった被相続人本人の意向に沿って、淡々と相続手続きを進めるだけです。遺言さえあれば…
親族間の骨肉の争いを避けるためにも、当事務所は遺言の作成を強く推奨します。