親族の方が亡くなりその人に借金や税金滞納などの負債があった場合、その相続人の方から 「相続放棄をしたい」といった相談をよくうけます。
このような場合において借金など支払い義務を引き継ぎ(相続)したくないということであれば、相続放棄をすることにより問題を解決できるケースがよくあります。
しかし、亡くなった人が「不動産」を所有していた場合、相続放棄をしたにもかかわらず「固定資産税」を支払わなければならなくなる場合があるため、注意をしなければなりません。
次の相談事例をもとに解説します。
【相談事例】
Aさんは自宅(マンション)を所有しており、結婚をしておらずお子様もいませんでした。すでに両親は他界しており、家族としては弟のBさんだけでした。
Aさんは元気に暮らしていましたが、令和1年11月初旬に急に亡くなってしまい、Bさんが相続人となりました。葬儀が終わり暫くして、BさんがAさんの遺産を整理していると、自宅のほか預貯金などプラスの財産がいろいろあることがわかりました。
しかし、12月に入り、債権者から催告書などがAさんの自宅に送られてくるようになり、多額の借金をしていることも判明しました。
結果、Aさんにはマイナスの財産が多いことがわかったため、Bさんは借金など支払い義務を絶対に負いたくないということから、12月中旬に相続放棄を裁判所に自分で申し立てました。そして年が明けて、Bさんの相続放棄申し立ては令和2年1月中旬に無事に受理されました。
Bさんは相続放棄をして借金などの支払い義務を負わなくなったと思い安心していましたが、令和2年6月になったころ役所から固定資産税の納税通知が送られてきたため「相続放棄をしたのにどうしてこのようになったのか?」と困惑した様子で相談にこられました。
今回の場合、以下の3つのポイントが考えられます。
1.(相続の放棄の効力)民法939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄をすると、この条文のとおり初めから相続人とならなかったこととなり、プラス財産やマイナス財産を引き継ぐことはありません。そのため相続放棄をすることによりBさんが考えていたことは達成できたかのようにみえます。
しかし、「固定資産税」については次に解説する「地方税法」の規定があり、相続放棄の壁のようなものとなっています。
2.(固定資産税の納税義務者等)地方税法343条について
1項 固定資産税は、固定資産の所有者(~条文一部省略~)に課する。
2項 前項の所有者とは、土地または家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳
若しくは家屋補充課税台帳に所有者(~条文一部省略~)として登記又は登録
がされている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録がされ
ている個人が賦課期日前に死亡しているときは、(~条文一部省略~)同日に
おいて当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。
この条文は、「台帳課税主義」の根拠とされている規定です。
役所に備えてある固定資産税の課税台帳に所有者として登録されている者が納税義務者となります。一方、固定資産(不動産)の所有者であっても、固定資産税の課税台帳に所有者として登録されていないのであれば、固定資産税を課されないこととなります。
このことは、最高裁平成26年9月25日の判決でも同様のことを判示しています。
3.役所から納税通知書が届いたら支払わないといけない??
2で説明した「台帳課税主義」の原則は、真の「所有者」でなくても課税台帳に登録されていれば納税の義務があるということです。※課税管理をする市区町村が固定資産(不動産)の真の「所有者」を調査するのは困難であることからこの原則が採用されていると言われています。
つまり課税台帳に登録された「所有者」が賦課期日(1月1日)に亡くなっていた場合は、この登録された「所有者」を「相続人」に置き換えて取り扱いをするということです。
今回の相談事例では「A」さんが令和2年1月1日に所有者として登録されており、そのAさんが亡くなっていることから「B」さんが納税義務者として取り扱いをされ、Bさんに納税通知書が届いたということになります。結果、Bさんは固定資産税を支払わなければならないということになります。
因みに、Bさんの相続放棄が令和1年12月内に受理されていれば、役所に対してBさんに納税義務がないことを主張できました。
※この場合Bさんは令和2年度以降の分は支払わなくてよくなります。
<まとめ>
・原則として相続放棄により固定資産税の納税義務はなくなる。
・相続放棄をしても固定資産税の課税台帳に登録されいる状態で納税を求められた場合は、
原則として納税義務が生じる。
・年をまたいだ相続放棄には注意を要する。