もし、あなたの実家が持ち家で、両親又は親のひとりだけがそこで暮らしている場合、将来、もしかしたらその実家は空き家になるかもしれません。
実家が空き家になってしまう要因は幾つかありますが、近年非常に多くなっているのは『親の認知症』を原因とするものです。『親が介護施設等に入所せざるを得なくなったことで、実家が空き家となる』というのが典型的なケースです。
本年7月16日、第一生命経済研究所が『認知症の人の保有住宅数』に関する試算結果を発表しました。それによれば、認知症の人の保有する住宅数は、2018年に210万戸だったものが、2021年には221万戸、2040年には280万戸と、今後も高齢化の進展とともに増加が見込まれるとのこと。
認知症の人が増加することでその保有住宅数が増加し、これが空き家の増加に繋がっていくのです。
実家が空き家になると、心配なことが幾つも出てきます。まずは火災です。実家の被害だけでなく、近隣へも多大な迷惑を掛けてしまう恐れがあり、最悪の場合は損害賠償責任を負う可能性もあり得ます。更に、戸建ての場合は雑草・害虫・害獣の発生や不法投棄による近隣からの苦情、雨漏り・湿気等による家屋の劣化や、倒壊の危険さえ考えられます。
空き家には、税金上のデメリットもあります。『空き家対策の推進に関する特別措置法』の施行により、行政から『特定空き家等』に認定されてしまうと、毎年の土地の固定資産税が最大で一気に6倍に跳ね上がります。また、親が実家を離れて施設入所等をしてから3年経過後の年末までに売却しなければ『3,000万円特別控除』が使えませんので、親が亡くなって別居の子が相続した後で売却となると譲渡所得税の負担が想像以上に重たくなります。
認知症の親が実家を出た後に、そこを空き家にしない為には、子が移り住むのが一番でしょうが、子にも様々な事情があります。子が移り住めないのであれば、処分(第三者に賃貸か売却)するしかありません。しかし、認知症の人が所有している不動産には、根本的に処分の難しさがあります。例えば、不動産を売るには、所有者自身が売買契約を結ばなければならないのが原則です。契約を結ぶには、自分の行為の結果を判断できる判断能力や精神能力を意味する『意思能力』が求められます。ところが、認知症を発症してそれが一定程度進行してしまうと、「意思能力を欠く」と判断されてしまう為、売買契約が締結できないのです。
そのような場合、代わりができるのは成年後見人のみです。子などが家庭裁判所へ親の後見人選任の申立てを行うことになりますが、選任される後見人はかなりの確率で家族ではなく司法書士等の専門家です。そして、選任された専門家後見人が改めて家裁に自宅売却の許可の申立てを行い、許可されれば後見人が本人に代わって売却手続きをすることが可能となります。後見人選任のための準備から実家の売却完了までを考えると、短くても半年程度、通常ならば1年以上の期間は覚悟しておく必要があるでしょう。
また、売却で得られた金銭も含めた親の財産は全て専門家後見人が管理していくことになり、家族は完全に蚊帳の外に置かれます。更に、専門家後見人には親の財産額に応じた報酬(1千万円以下で月2万円、5千万円超で月5~6万円が目安)が、親が亡くなるまで毎月掛かり続けますし、自宅売却などの特別な後見業務に対しては別途数十万円程度の報酬も掛かります。
そうした煩雑さや費用負担の面から、親に後見人を付けることを断念する人は多く、そうなると結局、実家の売却も諦めざるを得ません。その結果、子が親の介護施設入所費用や施設利用料などを、親が亡くなるまでずっと立替払いし続けているケースも少なからず見受けられます。
親の認知症により実家が空き家になることを防ぐためには、家族信託の活用が有効です。親の意思能力が欠如する前に、子が親から実家を信託しておいてもらいます。そうすれば、その後に親の意思能力が欠如しても、子の判断と手続きのみでいつでも実家を賃貸に出したり売却したりすることができます。そこで得られた金銭は子が管理をし、親の介護施設の入所費用や利用料、あるいは療養費など、親のために適切に使うことが可能となります。
信託の活用にあたっては、相応の初期費用は掛かりますが、将来空き家になった場合の様々なリスクを考えれば、決して高いものではありません。
当社では、一般社団法人家族信託普及協会より認定された家族信託コーディネーターが複数名在籍し、積極的にお客様の家族信託の活用をご支援しております。是非、お早めにご相談ください。