一、所有者不明土地問題
日本においては、相続をしても不動産の相続登記がされないなどの理由で、所有者不明の不動産が日本国土の22%に達し、九州全体の面積以上になりました。
日本の国土の2割を超える土地が所有者不明のため、多くの土地が管理されず放置され、公共工事が円滑に進まず、近隣に悪影響が出るなど所有者不明土地問題の解決が重大な問題となりました。
この所有者不明土地問題の解決のため、に令和3年4月21日に「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。
これらの法律は、大半が令和5年4月から施行されます(不動産登記法改正の一部は平成5年4月の後に施行予定のものがあります)。
二、所有者不明土地問題の解決のための法改正
1、所有者不明土地問題の予防のための法改正
所有者不明土地問題を予防するために、
①相続登記の義務化
②登記名義人の死亡等の事実の公示
③住所等の変更登記申請の義務化
④土地所有権の国庫帰属制度の創設
の法改正がなされました。
(1)相続登記申請の義務化
相続後も相続人が相続登記をしないため土地の所有者が不明になることが所有者不明土地問題が生じる大きな原因でした。
そのため、今回、不動産を取得した相続人は、相続開始を知ってから3年以内に相続を原因とした所有権移転登記申請をすることが法律上の義務となりました(改正不動産登記法76条の2)。
この法律は令和6年4月1日に施行されます。
(2)登記名義人の死亡等の事実の公示
登記官が、住基ネットなど他の公的機関から死亡等の情報を取得し、職権で死亡等の事実を登記に示すことができることとなりました(改正不動産登記法76条の4)。
この法律は令和8年4月までに施行される予定です。
(3)住所等変更登記申請の義務化
所有者の新住所等の連絡先が登記簿上で分からないことが所有者不明土地問題が多数発生する大きな原因の一つでした。
そのため、今回、住所等を変更した場合は2年以内に変更登記の申請をすることが義務化されました(改正不動産登記法76条の5)。
この法律は令和8年4月までには施行される予定です。
(4)国庫帰属制度の創設
相続人が相続で取得したものの必要のない土地で管理を放棄しているようなケースについて、一定の条件で国庫に帰属する制度が創設されました(相続土地国庫帰属法2条)。
この法律は令和5年4月に施行されます。
2、また、不在者土地の利用の円滑化を図るために
①所在不明土地・建物に対する管理命令の創設
②共有物の利用の円滑化
③遺産分割の期間の制限
④隣地等の利用管理の円滑化の制度の創設
の法改正がされました。
(1)所有者不明土地等管理制度の創設
所有者不明の土地等について財産管理をする制度が創設されました(改正民法264条の2以下)。
また、所有者による管理がされていない土地・建物についても、利害関係人によりその土地等の管理人を選任する管理不全土地建物管理制度も創設されました(改正民法264条の9)。
この法律は、令和5年4月に施行されます。
(2)共有物の利用の円滑化の仕組み
共有不動産のうち不明共有者がいる場合に共有者の利用が困難な場合があったので、裁判所の関与のもと、不明共有者に公告することにより、残りの共有者の同意のみで、共有物の変更行為や管理行為が可能となりました(改正民法251条、252条)。
また、所在不明な共有者の持分について、他の共有者が裁判所の決定でその持分を時価で取得したり、第三者に売却することができる制度もできました(改正民法262条の2)。
この法律は令和5年4月に施行されます。
(3)遺産分割の期間制限
遺産分割について期間制限がなく、そのことで相続人の把握が困難になったりして、所有者不明の土地が生じてしまうことなどがありました。
そのため、改正民法では10年以内に遺産分割協議をしないと、10年期間経過後は原則として法定相続分での分割となり、特別受益や寄与分の主張ができなくなり、長期にわたって遺産分割未了の案件を解消するようにしています(改正民法904条の3)。
この法律も令和5年4月に施行されます。
(4)隣地等の利用管理の円滑化制度の創設
隣地が所有者不明土地である場合、隣地を利用・管理できないといった問題が起きていました。
そのため、改正法では、ライフラインを引き込むための導管等を他人の土地に設置する権利を明確化し(改正民法213条の2)、隣地所有者不明土地状態にも対応できるようにしました。
この法律も令和5年4月に施行されます。
三、最後に
今回の法改正により、所有者不明の土地の発生を防いでいくとともに、所有者不明土地の円滑な利用を促進することで、所有者不明土地の問題の解決が図られていくことが期待されています。