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財産は自宅のみ 相続は心配無用?

2022.06.01

1、相続の心配はお金持ちの悩み?

司法統計によれば、2020年の相続争いの調停・審判の内、約8割が遺産5000万円以下の家庭の相続で起こっています。

また、「自分の子供たちは仲が良いから安心」だと思っていても、親の介護負担のバランスや、子供たちの経済状況、子供たちの家族の状況によっては、子供たち自身さえも思いもよらぬ争いに発展してしまうこともあります。

2、自宅の相続は意外と難しい?

例えば、こんな例を考えてみましょう。

【A子さん(70代の例】

財産:地方都市のベットタウンにある築30年の自宅(土地建物)と、預金300万
家族:配偶者には先立たれて、将来の相続人は子供3名。
上の二人P子・Q子は経済的に安定している。
自宅で同居している末っ子R子は、経済的に不安定なため、できればこの子に財産を多く残したい。

 

A子さんは、「自分の財産で一番価値があるのは自宅の土地建物なので、これをR子に相続させて、あとは3人で分けるように遺言でも書いておこうか…」と考えています。


確かに、その内容の遺言を書いておけば、相続の際、R子は他の兄弟たちとの遺産分割協議を経ずに自宅をもらうことができます。 しかし、それが本当にR子を守ることになるのでしょうか。

R子を助けるつもりで書いた遺言が、かえってその子を困らせる結果となってしまっては元も子もありません。
では、次以降で、自宅を相続させたときに起こりえる問題を、具体的に考えていきましょう。

3、自宅を相続した時のリスク「管理の負担が思ってたより大きい?」


仮にR子は独身だとしましょう。
家族5人で暮らしていた自宅は、A子さん亡き後R子一人で暮らすには大きすぎるかもしれません。
掃除や管理の手が行き届かず、使用するのは一部だけという状況になり、もともと古い家の劣化が進むことが考えられます。

R子はしばらく一人で実家に住んでいましたが、大きすぎる郊外の実家では何かと不便なので、便利のいい都会のワンルームを借りて一人暮らしをすることにしました。

しかし住んでいない家にも、管理費用はかかります。
固定資産税や水道光熱費、庭木の剪定など管理費用、管理に通うための交通費などがかかるため、年単位では数十万円程度かかることも珍しくありません。
また、管理不足で空き家が倒壊した場合の賠償責任を負ってしまったり、災害などで想定外の大きなお金が必要になることも考えられます。
更に、管理不足の空き家を放置しておくと、土地の固定資産税が6倍になってしまう可能性もあります。
2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、自治体に「特定空家等」に認定されたら、住宅の敷地は課税標準を1/6にするという「住宅用特例」という優遇措置が解除されてしまう可能性があるからです。

4、何ができるか?

では、どうすればいいのでしょうか。
残念ながら、全てのケースに対応できる万能の解決方法はありません。
具体的な対応策を考える前に、まずは次のことを整理してみてください。

①自宅を相続させたい子に、そのまま住んでほしいか。住み続けることが可能か。
②住み続けるために必要な費用は、相続させたい子が負担することができるか。
③自宅を相続させたい子が自宅に住まない場合、いくらで売れるか。
④他の相続人は納得してくれるか。自宅以外の財産で調整ができるか。

なお、今回のケースなら、例えば次のような準備ができたのではないでしょうか。

ア)予め、R子に自分が亡くなった後も一人で自宅に住みたいかの希望を聞く。
イ)住まないなら、将来売却した場合いくらになるかを調べておく。
ウ)自分が元気なうちに自宅を売却しておく。
エ)売れない場合、管理に必要な費用をR子に残しておく。

ちなみに、もし私が司法書士としてA子さんから相談を受けたとしたら、次のような提案をすると思います。
・R子が実家に住み続けるとしたら、「自宅と現金(当面の管理費用分)をR子に相続させる」という内容の公正証書遺言の作成を提案する。
・A子さんが元気な間はそのまま住み続けたいが、施設に入った後は売却したいというご希望なら、A子さんが将来認知症になっても自宅の売却ができるように、家族信託を提案する。

他にも選択肢は色々あります。A子さんがお元気なうちに対策をしておくことで、残された子供たちが実家の相続で悩んだり、争ったりせずに済みます。
相続と不動産の専門家である当相続サポートセンターや司法書士にご相談いただければ、ご家族の状況やお悩みに沿った解決策を提案し、ご相談者様と一緒に考えていくことができます。

5、まとめ

「自分の財産は少ないから心配しなくてよい」「なんとなく不安になってきたが、何から手を付けてよいかわからない」という方は、まずは早めの情報収集と相談をお勧めします。
相続の対策は、自分が元気なうちしか選べない選択肢もたくさんあります。
良かれと思ってした相続対策が、相続人に想定外の負担とならないように、納得のいく対策をしましょう。
 

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筆者紹介

渡邊 倫子
司法書士法人みつ葉グループ
相続事業部 福岡オフィス チーフ

福岡県司法書士会 第2053号
簡裁認定司法書士番号 第1229061号

沖縄県出身。結婚を機に九州に来て10年です。 ご相談では、お客様のお話をじっくり聞くことを心がけています。
相続や生前対策については、何に対して不安に思っているのかさえ、よくわからないという方が多くいらっしゃいます。
色々話していただいている中で課題がはっきりして、解決に一歩踏み出した時のお客様のほっとした顔をみると、この仕事をしていて良かったと感じます。
人に話すことで、漠然とした不安が整理されて軽くなることもあります。ぜひお気軽にご相談ください。

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