はじめに
相続税において障害者の方には優遇措置が設けられております。
障害者控除の金額の計算自体はシンプルで特に難しいものではないのですが、見落としがちな論点がいくつか存在します。
そこで本記事では相続税法上の障害者控除について概要と注意点について解説していきたいと思います。
相続税法上の障害者控除とは?
相続税法上の障害者控除とは、相続等により財産を取得した者が法定相続人であり、かつ、障害者に該当する方の税額を減額できる制度です。
具体的には下記の算式により計算した金額を税額から直接控除することができます。
一般障害者控除・・・10万円×(85歳 ‐ 相続開始時のその者の年齢※)
特別障害者控除・・・20万円×(85歳 ‐ 相続開始時のその者の年齢※)
※1年未満の場合は切り捨て。例えば60歳2ヵ月だとしたら60歳として計算。
なお、一般障害者とは障害者等級3級等に該当する方、特別障害者は障害者等級が1,2級等に該当する方です。
注意点その1 障害者の方の相続税が0円となった場合
障害者控除の適用要件を満たしている方が相続等により財産を取得している場合には、例えば他の税額控除により納付すべき税額がない場合であっても、障害者控除はその扶養義務者の相続税から控除することができます。
この場合、その控除しきれない金額を他の相続人である扶養義務者の全員の協議により誰がいくら障害者控除をうけるか決めることになります。
仮に協議により障害者控除の金額を按分できない場合は、各人の税額に応じて按分することになります。
なお、障害者の方がまったく財産を取得していないときは扶養義務者の相続税から控除することができません。
注意点その2 相続税法上の扶養義務者の範囲
障害者控除で控除してもしきれなかった場合については、その扶養義務者の税額から控除することができますが、この扶養義務者の概念が相続税法上では広く定義されています。
つまり、相続税法7条において配偶者と民法877条に規定する親族をいうものとされています。
この扶養義務者という名称より実際に扶養してないといけないと勘違いしてしまいそうですが、実は実際にお金を補助していなくても扶養義務者として障害者控除の適用をうけることができます。
具体的には、親が亡くなった場合において相続人が子供2人であるとき、子供二人はお互いまったく生活が別々でお金の補助もしていない場合でも、その二人は兄弟なので民法上の扶養義務者に該当します。よって障害者控除の枠が余っている場合は、その余っている枠分を兄弟である相続人に対しても障害者控除の適用を受けることができます。
所得税法上の扶養親族の範囲とは少し異なることになりますので注意が必要です。
注意点その3 障害者認定の申請中の場合
相続開始時点において、何らかの事情により障害者手帳の交付を受けていない場合であっても障害者控除を適用することは可能です(相基通19の4―4)。
この場合は、期限内申告書を提出する時において下記の要件のいずれかを満たすことができれば障害者控除を適用することができます。
・相続開始日から申告期限内に手帳の交付を受けている
・申告期限において手帳の交付申請中、かつ、医師の診断書等で確認できる
従いまして、相続開始時点に障害者手帳を持っていない場合であっても、障害者認定の申請を行うことで障害者控除の適用が可能となります。
おわりに
障害者控除は相続税を大きく減額できる制度となっております。
改めてまとめますと、下記のとおりとなりますのでご留意いただければと思います。
・障害者控除で控除しきれなかった部分については他の相続人である扶養義務者から控除することができる
・扶養義務者は実際に扶養していなくても配偶者と民法上の親族に該当すれば良い
・相続開始時点で障害者手帳を持っていなくても交付申請を行えば障害者控除が適用できる