相続が開始すると、遺言書が遺されていない場合は、一般的に相続人全員の遺産分割協議により、誰が何をどれだけ相続するかを決めることになりますが、いつまでに決めなければならないという制限はなく、いつでも遺産分割をすることができます。
そのため、相続人が積極的に遺産分割協議をしない場合は、相続財産中の不動産の所有者が確定せず、登記簿が被相続人名義のまま長期間放置されることとなり、所有者不明の不動産が増加し社会問題となってきました。
そこで、これに歯止めをかけるため、民法等の一部を改正する法律が令和3年に成立し、相続登記の義務化(相続開始から3年以内)と罰則(10万円以下の過料)に関する制度が令和6年4月1日から施行されることになりました。
また、遺産分割協議を行ったものの不調に終わり、調停や訴訟へ移行する場合も同様に、決着までの間は所有者が確定しない状態が続くこととなり、特別受益・寄与分の有無の認定や算定額を巡る争いが訴訟の長期化を招く一因となってきました。
特に、捜索困難な古い証拠集めや証人の高齢化等の問題が生じている場合には、時間の経過とともに、更に長期化する傾向がありました。
なお、特別受益とは、被相続人から贈与や遺贈等を受けた相続人の相続分を法定相続分より少なくする制度です。
一方、寄与分とは、被相続人の財産の維持・形成に貢献した相続人の相続分を法定相続分より多くする制度です。
そこで、遺産分割の早期解決を促すため、前記改正法に基づき、遺産分割における相続人からの特別受益・寄与分の主張期間を相続開始から10年以内とする制度が令和5年4月1日から施行されることになりました。
これにより、今後の遺産分割裁判の場面においては、相続開始から10年を超える相続については、特別受益・寄与分を加味せずに、法定相続分(または遺言により指定された相続分)を基準として判断されることになり、訴訟の早期解決が期待されます。
適用の範囲は、施行日(令和5年4月1日)以降に発生した相続だけではなく、施行日前に発生した相続も含まれますが、相続登記を放置している不動産について、施行日後、直ちに適用となると混乱を招くおそれがあるため、5年の猶予期間が設けられています。
施行日より前に開始した相続については、相続開始から10年経過時または令和10年4月1日のいずれか遅い方を期限とします。
つまり、平成30年4月1日までに開始した相続については、令和10年4月1日、その後に開始した相続については相続開始から10年経過時が期限となります。
なお、相続開始から10年経過後も、相続人全員の協議によって法定相続分と異なる内容の合意が成立した場合は、これまで通りその合意は有効です。
今回の特別受益・寄与分の主張期間を相続開始から10年以内とする制度は、あくまで、相続人間で揉めた場合の遺産分割での主張制限を規定したものであり、今後も相続人の合意に基づく遺産分割を排斥するものではありません。
くれぐれも、相続開始から10年経つと「自動的に法定相続分となる」と誤解されないようにご注意下さい。
以上、相続開始から10年を超える相続については、遺産分割の早期解決策が講じられることになりましたが、それ以外については依然として、相続人は特別受益・寄与分の主張ができることに変わりありません。
そこで、今後の相続について、不動産の所有者が遺言書を遺し、相続人間の遺産分割協議を不要とすることは、相続人間の争いを予防する非常に有効な手段と考えられます。
遺言書の作成に際しては、各相続人の遺留分等にも注意が必要ですので、ご検討の際は、是非、専門家にご相談ください。