相続支援コンサルタントの植野です。
私たちは日々、お客様からの相続に関する相談をお受けしています。
その中で遺言書の必要性について説明する機会が多いのですが、検討した結果、作成を見送る方もいらっしゃいます。肌感覚で一番多い理由は「遺言書はまだ必要ない(=相続発生はまだ先だと思っている)」というもので、次に多いのが「誰に何を渡すか決まっていない」という理由です。日本財団の調査によると、約6割の方が遺言書を作成しなかった場合にトラブルが起こる心配はないと回答しています。
では、そのような状況の場合、はたして遺言書の作成は必要なのでしょうか。
<それでも遺言書を作成したほうがいい方とは?>
誰に何を渡すか決まっていない状況で、遺言書の作成に取り組むことは難しいことだと思います。ですが専門家としては、そのような方にもできるだけ遺言書を作成することをオススメします。理由は遺言書作成の最大の目的が「相続に関するトラブルの防止」であり、どのような方にもトラブル発生の可能性は少なからず存在するためです。
その中でも特に下記に該当する方は「特に必要性の高い方」です。現状で誰に何を渡すかという方針が決まっていなくても、「もしも今、私に相続が発生したら誰にどのように財産を渡したいか」という前提に立ち、今考えうる内容で遺言書を作成していただきたいと思います。
【遺言書が必要な方の例】
・不仲な相続人がいる方
・後妻(後夫)がおり、前妻(前夫)との間に子どもがいる方
・子どもがいない夫婦で、兄弟姉妹がいる方
・相続人がいない方(いわゆる「おひとり様」)
・特定の相続人に相続分以上の財産を相続させたい方
・特定の方に多額の贈与を行っている方
・所有する財産のうち、不動産が占める割合が多い方
・事業を行っている方、自社株をお持ちの方
・相続人が外国にいる方
・認知症等で判断能力に問題のある相続人がいる方
<遺言書が無いデメリットを考える>
例えば、相続人が妻と子ども1人で関係は良好。相続対象の財産は、自宅とその自宅の倍の評価の金融資産額を保有している。このようなケースでは、無理をしてまで遺言書を備える必要はないかもしれません。
ですが、上記の例に該当する方は、相続がきっかけでトラブルになりやすい方です。生前に法的に有効な遺言書を備えていた場合は、基本的に遺言書通りの遺産分割ができます。財産所有者(=被相続人)の遺志が最優先となるためです。ですが遺言書が無い場合は、遺産分割を決める方は相続人になります。その相続人全員が遺産分割案に同意しないと、遺産を分けることができません。遺産分割にトラブルが発生すると、相続人は時間も金銭も労力もかけてそのトラブルを解決することになります。遺言書がないことによるこのデメリットは無視できないほどの大きなものであるため、「遺言書を作っていない」という状態は極力避けるべきだと思います。
<遺言書は何回作り直してもOK>
遺言書は作成した後に、何回でも作り直すことができます。考え方や財産内容が変わったとしても、その都度変更を加えアップデートしていくことで、より良い内容の遺言書となっていきます。日本財団の調査によると、遺言書の作成者が遺言書を書いてよかったと思うことの上位3番は「気持ちの整理になった」「自分の財産の使い道を自分の意思で決められた」「安心して老後を過ごせるようになった」と、遺言作成者にポジティブな影響を与えることが分かっています。上記の遺言書が必要な方で、まだ誰に何の財産を渡すか決まっていないという方も、まずは今年中に「遺言書を作成する」ということを目標に、2024年の後半を過ごされてみてはいかがでしょうか。