相続が開始した後、不動産登記や銀行口座等についての相続手続きをするためには、必要書類の手配と様々な調査が必要となります。
そこで今回は、相続手続き準備の中でも重要となる①戸除籍謄本の収集、②遺産の調査、③遺言の調査について解説したいと思います。
①戸除籍謄本の収集
相続が開始した後、まずやるべきことは、戸除籍謄本の収集です。
不動産の相続登記や銀行口座の解約手続きをする際には、公正証書遺言等がある場合を除き、法定相続人を特定する必要があるため、被相続人の出生から死亡までのすべての除籍謄本と相続人全員の戸籍謄本一式を取り寄せなければいけません。
被相続人の除籍謄本の取得については、本籍地が遠方にあるときは当該役所に出向いたり郵送での請求をしたりと、以前は大変な作業でした。
しかし、令和6年3月から広域交付制度が開始されことにより、遠方の本籍地のほとんどの除籍謄本についても、相続人自身による申請によって、最寄りの役所での一括取得が可能となりましたので、簡単にそろえることができるようになりました。
但し、非常に古い除籍等の電子化されていないものについては、従来通り、該当する役所の窓口または郵送での申請を行う必要があるようです。
また、準備が必要な戸除籍謄本一式の通数(セット数)については、相続手続きの数や提出先の要求に応じて手配することになりますが、必要通数が特に多い場合は、戸除籍謄本一式1セットを取得した後、法定相続情報一覧図とあわせて法務局に提出することにより、法定相続情報証明書(戸除籍謄本一式と同様の効力がある証明書)の交付を受けると、その後の手続きが非常に楽になります。なお、法定相続情報証明書は何通でも無料です。
②遺産の調査
(1)不動産について
被相続人の所有不動産がある場合は、固定資産税の納付通知書が毎年4月頃に自宅宛てに送付されています。納付通知書には、不動産の所在と地番が記載されていますので、それをもとに不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を法務局で取得し、権利関係を確認します。
納付通知書が見つからないときは、戸除籍謄本(被相続人の死亡と相続人であることを証明できるもの)を役所の固定資産税課に提出して、固定資産の名寄帳(所有不動産の一覧表)を取得します。この名寄帳は、不動産を管轄する市町村毎に編成されていますので、例えば、福岡と大阪に不動産があるときは、2箇所の役所に請求することになります。
また、登記済権利証(登記識別情報)がある場合は、その中に記載されているすべての不動産(非課税地や私道共有持分等が稀に記載されています。)につき、登記事項証明書を取得して現在の権利関係を確認します。
(2)預貯金について
被相続人名義の通帳やカードによって判明している口座以外のものについては、最寄りの金融機関に対し、戸除籍謄本を提出して口座の残高を照会することができます。但し、すべての金融機関の口座を一括して照会することはできないため、被相続人の過去から現在までの住所地や勤務先等の範囲を絞って予想したうえで、請求することになります。
(3)債務について
債務(銀行借入やクレジットカード等)については、通帳の返済履歴、契約書、郵送物等をもとに調査しますが、後から思いもよらない債務がでてくることを不安に感じる場合は、信用情報機関に対し、戸除籍謄本を提出して情報開示請求を行うことにより、加盟している金融機関・貸金業者・信販会社等についての情報を得ることができます。但し、信用情報機関に加盟していない闇金や個人からの借入れについては含まれません。
③遺言書の調査
遺言書の有無は、遺産の権利関係に重大な影響を及ぼしますので、自宅の遺品整理の際には、念入りに調べる必要があります。
もし、自宅に保管されていなくても、公正証書遺言(公証人役場)や自筆証書遺言(法務局保管制度)があるかもしれないと思われるときは、戸除籍謄本を各機関に提出して、遺言の有無を確認することができます。
そして、調査の結果、遺言書はないと判断した場合は、相続人全員による遺産の分割協議を行い、決定された内容に基づき各種手続きを協力して行うことになります。
これに対して、遺言書(自筆証書遺言・公正証書遺言等)がある場合は、相続人間の協議は原則不要で、遺言執行者が遺言の内容に従い各種手続きを行います。
特に、公正証書遺言がある場合は、迅速に手続きを済ませることができます。
一方、自筆証書遺言(法務局保管を除く)については、戸除籍謄本一式を集めた後に、家庭裁判所に検認の申立てをしなければいけませんので、公正証書遺言と比べると時間と手間がかかることになります。
以上の相続手続きの準備としての戸除籍謄本の収集や各種調査は、相続人ご自身により行うことができますが、その後の相続手続きが完了するまでには多くの注意点があります。
確実な相続手続きをするためには、是非、専門家にご相談頂き、また、これを機にご自身の公正証書遺言の作成についても検討してみてはいかがでしょうか。