今回は、相続税申告の際、問題になりやすい「名義預金」についてご説明します。
■名義預金とは
名義預金とは、実際にお金を出した人と口座の名義人が違う預金のことです。
イメージとしては、祖父が孫のため、毎年少しずつお金を入れてあげている口座です。
「子供のころ祖父が私の口座を作ってくれていたな」と思い出した方。
逆に「孫名義の口座にお金をためてあげている」という方も多いのではないでしょうか。
お金を出した本人の気持ちとしては、孫に毎年少しずつあげている(贈与している)つもりでも、いざ相続となったときに、真の所有者は本人(被相続人)だと判断されてしまうと、
この名義預金は相続税申告の対象となってしまうのです。
誰にも言っていないからばれないでしょう?と思いますか?
相続税の税務調査で、この名義預金の申告漏れを指摘されるケースが多数あるのです。
■『銀行調査』でばれるのです
相続税の税務調査では、被相続人や相続人等の預金口座を調べるための『銀行調査』が行われることがあります。
『銀行調査』の実施率は、相続財産の課税価格が1億円未満の「低階級」で75.1%、5億円未満の「中階級」で80.6%、5億円以上の「高階級」で89.1%です。
課税価格の大小にかかわらず、多くの事案で『銀行調査』が行われることは間違いないようです。
この『銀行調査』が行われると、預金の流れを把握されてしまうため、名義預金は簡単に見つかってしまうというわけです。
■税務調査って本当にくるの?
そうは言っても、税務調査なんて本当にくるの?と思われる方も多いでしょう。
実際、コロナ禍であった令和2事務年度の相続税実地調査件数は5,106件で、対前事務年度比48.0%と大幅に減少しています。(令和3年12月 国税庁 報道発表資料より)
しかしその後、令和3事務年度には6,317件、令和4事務年度には8,196件と件数は増えてきています。(令和5年12月 国税庁 報道発表資料より)
さらには、文書や電話などによる連絡等により申告漏れ等を是正する方法(「簡易な接触」といいます。)は、令和4事務年度には15,004件行われ、簡易な接触の実績の公表を始めた平成28事務年度以降で最高となりました。
コロナの時代を経て、税務署は工夫を重ねて様々な方法で調査を行うことは間違いないということです。
■名義預金とみなされないために
ではどうすればよいのでしょう?
ポイントは「両者の認識の合致」と「管理処分権限の移行」です。(ここでは、お話を分かりやすくするため、祖父が孫名義の口座を作るという設定でご説明します)
①両者の認識の合致とは
名義預金とみなされないためには、祖父が孫に「生前贈与」として贈与することが必要です。
贈与を成立させるために、祖父が「あげるんだ」と認識し、孫が「もらうんだ」と認識しなければなりません。
現状、年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりませんが、祖父から孫への贈与の証拠を残すため、金額が少なくても贈与契約書を作成することも一つの手段でしょう。
②管理処分権限の移行とは
贈与されたお金は、孫本人が自由に使えないと「もらった」とは言えません。
印鑑・通帳・キャッシュカードはどこにありますか?
祖父の貸金庫などに入っていては、孫は自由に使えず、実質的に祖父の財産とみなされてしまいます。
印鑑・通帳・キャッシュカードは孫が管理するようにしましょう。
また、口座を開設する銀行等の支店にも気を付けてください。
孫が足を運ぶのに困難な場所であれば、誰が開設したのかといらぬ疑いをかけられることになりかねません。
もっとも近年はインターネットバンキングの普及により、各種手続をオンライン上で行えるようになりましたので、この問題は徐々になくなっていくのかもしれません。
■おまけ
ここまでは、名義預金がもらった人の財産であることを前提にお話してきましたが、実際には本当の意味で名義預金である場合も多いでしょう。
そんなときは、真の所有者の財産として正しく申告し納税してくださいね!
いかがでしたでしょうか?
毎年少しずつ家族に渡してきたはずのお金。
子や孫を思う気持ちを実現できるよう、「名義預金」をしっかりと理解して、対策を取っておきましょう!!