最近、書店などで介護を取り上げた雑誌をよく見かけます。日本の少子高齢化が叫ばれて久しい昨今、長生きは喜ばしいことですが、それに伴い医療や介護などの備えは非常に重要な課題となっています。
中でも、「認知症」をはじめとする判断能力の衰えは、相続などの法律行為にも制限を与えてしまいます。例えば、自分の相続に備えて遺言書を書くとか、親や兄弟の相続が発生した場合に遺産分割協議をするなど、相続に関する手続きを行うには判断能力がなくてはなりません。
そこで今回は、このような状況で利用される「成年後見制度」についてお話したいと思います。
成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があり、「法定後見制度」は本人の判断能力の程度などにより、「後見」、「保佐」、「補助」の三つに分かれています。「法定後見制度」の場合には成年後見人・保佐人・補助人が家庭裁判所によって選任され、その事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。
成年後見人は本人の利益を守ることを務めとしており、本人にとって不利益な契約を行った場合に取り消したり、本人にとって必要な契約行為を代わって行うことができます。本人が相続人となった場合には、限定承認や相続放棄、遺産分割協議、相続税申告などの必要な手続きを、法定後見人が代理で行います。ただし、同じく相続人となっている方が法定後見人になることは利益相反となり認められませんので、その点には注意が必要です。
「法定後見制度」がすでに判断能力がなくなった場合に申し立てるのに対し、「任意後見制度」は本人に十分な判断能力があるうちに、「もし自分に判断能力がなくなったら、財産の管理や契約などを代わりにやってね」という契約を結ぶことができる制度です。法定後見制度を利用できるのは、すでに判断能力が低下してしまってからですので、本人が希望する人が後見人となるかどうかは分かりません。しかし、判断能力があるうちに契約することができる任意後見制度では「誰にお願いするのか」というところを本人が決めることができますので、本人の希望が反映されやすいという安心感があると言えます。
任意後見制度を利用する場合は、公正証書を利用して契約を結びます。そして実際に判断能力が衰えたと判断された場合に、任意後見人として法律行為などを行うようになります。任意後見を開始する場合は、家庭裁判所に申立てをして、任意後見監督人の選任をしてもらいます。この任意後見監督人が任意後見人の仕事をチェックすることになります。
このように、相続人の中に判断能力が低下した方がいる場合でも、後見制度を利用することで本人に代わって手続きを行うことができます。しかし、もし法定後見人を選任してもらった場合、たとえ相続手続きが終わっても法定後見が終わるわけではありません。その後も法定後見人として、被後見人の財産管理等を続けていく必要があります。後見の終了は本人の死亡か能力回復が要件となっており、相当の理由があると認められて後見人の変更を行うことはできるとしても、誰かが後見人として面倒をみていく必要があります。任意後見についても、契約内容によっては同様のことが言えます。
また、遺産分割協議を行う場合も、法定後見人は本人の利益を守る必要がありますので、本人にとって極端に不利と思われるような分け方には同意できません。もし本人に判断能力があれば納得してもらえたかもしれないような状況であったとしても、そこに相当な理由がない限り、本人にとって不利と判断される遺産分割は成立しないことになります。
状況次第ではありますが、後見制度は単純に便利な制度とも言えないのです。
後見制度は判断能力がない方を保護・支援する制度です。しかし、状況によってはメリット・デメリットがあり、後見人となった方の実務が煩雑であることも確かです。もし専門家に後見人となることを依頼すれば報酬を支払う必要が出てきますので、金銭的な負担も生じます。相続という一点に限って言えば、遺言書を作成することで備えておくことをおすすめします。遺産分割協議の手間を省くという点でも、自分が望む財産の分け方を実現するという点でも、やはり遺言書に敵うものはありませんから。